腸管出血性大腸菌O157 感染:老人の呼吸不全症例−奈良県

われわれは、81歳の腸管出血性大腸菌O157感染症の女性を呼吸不全で亡くしたので、本症の治療において参考にしていただくために経過の概略を報告する。

症例:81歳 女性 独居
病名:腸管出血性大腸菌O157感染症
腸管出血性大腸菌O157同定日 1997年6月30日、VT1(+) VT2(+)確認日 1997年7月2日、呼吸不全→多臟器不全

経過:1997(平成9)年6月26日20時すぎ腹痛、血性下痢が出現し、翌日入院。抗菌薬(LVFX 200mg/日)と輸液の投与を受けたが、血性下痢は持続し、血小板数は122,000/μlに減少した。28日より抗菌薬をPAPM/BP(2g/日)に変更したが、午後から意識レベルの低下、痙攣を伴ったので30日に奈良県救命救急センターに転院した。

転院時、胸水、腹水、腸管の高度浮腫、頭部CTで脳浮腫を認めた。抗菌薬(FOM 4g/日)を投与し、脱水に対して厳重な輸液管理を開始した。7月1日に血小板数は21,000/μlまで減少し、LDHは794IU/lに上昇した。尿量は700〜900ml/日で、尿比重は1,020、血清クレアチニンは1.0mg/dlであった。脳症が出現していたが、高齢者であるため血漿交換を行わずに経過観察を行った。7月2日から意識レベルの改善が認められ、呼びかけに対して確実に答えることができるようになった。しかし、胸水が両側肺野に大量貯留し、動脈血酸素ガス分圧が低下した。胸腔ドレナージチューブを挿入して排液を徐々に行い、ガス分圧は改善した。3日より血性下痢は消失した。4日から血小板数は90,000/μlに改善し、腎機能は維持されていた。ところが、5日18時頃から呼吸不全が出現し、機械的人工呼吸管理を開始し、ソルメドロール1g/日を連日投与した。6日12時頃から尿量の減少、血圧低下をきたし、多臟器不全のため10時すぎに永眠された。

まとめ:本例は、HUS に陥っていないが、脳症および呼吸不全を伴って死亡した腸管出血性大腸菌O157感染例である。高齢者であることを考慮して、血漿交換を行わずに経過観察を行った。血小板数・LDHは改善傾向を示し、血性下痢も消失し、脳症も軽快したが、慎重な輸液管理のもとに治療を行ったにもかかわらず、急速な大量胸水貯留と高度の肺水腫による呼吸不全が起こった。昨年の発症例の中にも数例は呼吸不全を合併して死亡しており、本症の管理においてHUS、脳症とともに呼吸不全の合併に留意する必要がある。呼吸不全発症の機序の解明と治療法の確立が急がれる。

奈良県救命救急センター 籠島 忠

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