肺炎で死亡した小児からのアデノウイルス7型のPCR 法による検出

1996年7月頃より上下気道炎を主訴とする当科受診患者からアデノウイルス7型(Ad7)が分離されていたが、1997年1月、心房中隔欠損症の入院患者(生後5カ月)が肺炎で死亡した。経過は1月13日発熱、咳嗽から始まり、26日に突然間代性ケイレンが出現、続いて弛緩状態となり呼吸停止、胸部レ線上両肺野に高度の無気肺、肺気腫および浸潤影が混在、人工呼吸器のO2濃度は60〜80%を必要とした。GOT、GPT、LDHは軽度上昇、線溶系の異常は見られなかった。1月27日には胸部レ線像はやや改善したが翌日再び悪化した。ステロイド投与、高PEEP設定としたが血液ガス所見悪化、両肺野にスリガラス陰影出現、ARDSとしてサーファクタント補充、HFJVを試みたが低O2血症が進行し、2月1日死亡した。死亡日の検査データはPLT 8.4万、GOT 272, GPT 80, LDH 4,570、CK 127、Ammonia 166、PT 52.8、APTT 36.2、FIB 180、FDP 5.1、血中エンドトキシンは陰性であった。

死亡直後の肺と肝の穿刺材料と生前に得た髄液についてウイルス検査、特にAd7のPCR法による検索を行った。検体材料から抽出液を作製、そのまま、またはSDSで可溶化しDNAを抽出、10倍濃縮したものをサンプルとして用いた。Ad7DNAが特異的に検出できるようにプライマーはAd7ヘキソン蛋白遺伝子の可変領域(850bp)に設定した。その結果、肺、肝からウイルスDNAを検出できた(図1)。同時に、民間検査機関より、生前に採取した咽頭ぬぐい液および鼻汁からAd7の分離が報告された。

アデノウイルスの診断法としての分離同定は、一般に増殖が他のウイルスよりやや遅いため時間がかかる。PCR法はこの点迅速に診断が確定できる。また穿刺材料のPCR診断ではウイルス血症の可能性を否定できないが、特定臓器でのウイルス増殖の有無を検索する一助となるであろう。感度などの面をさらに検討している。

国立感染研感染症情報センター
向山淳司 稲田敏樹
市立釧路総合病院小児科 横沢正人

編集委員会註:現在までAd7肺炎による死亡が数例報告されているが、いずれも小児で基礎疾患を有する患者である。今後も類似の症例が発生する可能性がある。ハイリスク者に感染を起こさせない注意が必要である(本月報Vol.18、No.4、p.1〜2参照)。

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