大阪府下の厚生福祉施設で集団発生したA型肝炎

1997年1月〜4月にかけて、大阪府の厚生福祉施設においてA型肝炎の集団発生を認めた。発生があったのは7寮 460名、職員 210名からなる施設内の重度行動障害者成人寮で、男子西棟17名、男子東棟17名、女子16名の計50名からなる施設であった。年末の帰省から帰寮して間もなく発熱、食欲不振、行動不活発等の症状を示す者が数名おり、当初感冒ということで対処された。しかし、その約1週間後の14日になって1名に黄疸症状が現われ、血清診断よりA型肝炎の診断がおりた。そのため17日に寮生7名の血液検査を行い、7名全員に肝機能異常、 HAV特異的 IgM抗体を認めた。その後西棟17名中感染歴のある1名を除く全員が発症、東棟および職員にも発症者がでたため、検査依頼を受けHAVの検出を行った。発生状況を図1に示した。

HAVの検出には発生寮寮生、隣接寮寮生および職員の糞便を材料とし、抗体測定用HAT-EIAを応用したELISA およびRT-PCR法を用いた。プライマーにはMarchaisら(Molecular and Cellular Probes 8,117-124)のA、Bプライマーを用いた。その結果(表1)、発生寮において男子では19名中14名からHAV-RNAが検出された。職員においてHAV-RNAが検出された8名のうち男性5名が発症した。ELISAは2回以上糞便が採取された人およびRT-PCR結果の確認を必要とした場合に用いたため単純に比較出来ない結果となっていることを考慮していただきたい。HAV-RNAの検出者数は発症者が認められなくなった後も存在し、HAV-RNAが長期にわたって検出された(図1)。肝機能の正常化の後57日目においてもHAV-RNAおよび抗原が陽性という例、さらにIgM抗体が検出されず肝機能も正常でありながら長期間 RNAおよび抗原が陽性のケースも認 められた。これに対し、昨年大阪府の乳児院において発生したA型肝炎例では、HAV抗原は発症2週間前には検出されたが、肝機能異常時には検出できないことが特徴的であった。

感染源について考察を加えると、寮における食事、水に関しては共通の食事をとっている他寮においての発生がないことから原因とは考えられなかった。その後の保健所の報告において今回の集団発生の初期に発症した西棟寮生のホームヘルパーが12月上旬にA型肝炎を発症していたことが分かった。この寮生は11月に帰省した折にこのホームヘルパーの介護を受けており、A型肝炎の潜伏期間から推測すると、このときに感染し、今回の集団発生の原因となったと考えられた。

なお、今回の発生より得られた株のVP1/2A領域168塩基の配列を決定し、ホモロジー検索を行ったところ、genotype IAであるCR326株と97%の相同性を示した。

今回の発生では男子寮特に初発棟では全員が感染し、寮生のほとんどが感染してしまう結果となった。時期的にインフルエンザが疑われ対応が遅れたこと、症状の把握が困難であったこと、さらに便の適切な処理が自身で行えないことなどが感染の拡大の原因であったと思われる。またγ−グロブリン接種を拒否されるケースが多かったこと、また接種を受けた場合でもその時期が潜伏期後期であった場合は発症し、かつHAV抗原およびRNAが検出されていることを考えると施設利用者およびスタッフやボランティアの方への積極的なワクチン接種が必要であると感じた。

大阪府立公衆衛生研究所
左近直美 山崎謙治 奥野良信

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