糞便中のA型肝炎ウイルスの検査
愛知県においては1989年〜91年にかけてA型肝炎の小流行があり、年間 100名以上の患者の報告があった。それ以降数は減ったものの毎年2桁台の報告数が続いている。当研究所では、糞便中のA型肝炎ウイルス(HAV)検査に ELISAと抗原捕捉RT-PCR法を用いているので、その概要を報告する。いずれの場合もデンカ生研のHAT-EIAキットを応用している。
糞便は PBSで10%乳剤とした後、10,000×g、20分間遠心分離し、上清を検査材料とする。キット添付の抗HAV抗体がコートされたプレートのブロック液を抜き、洗浄後に検査材料 0.1mlを加え4℃で一晩静置し、翌日検体を除去して洗浄する。ELISAの場合は以後、HRPOラベル抗HAV抗体を反応させ、添付のマニュアル通りに発色させて判定する。
抗原捕捉RT-PCR法の場合は、検体を除去して洗浄後、尿素溶液(7M Urea、0.35M NaCl、10mM Tris-HCl pH 7.4、10mM EDT A、10%SDS) 0.1mlを加えて、室温で10分置く。ウイルスが溶出されるので、この液に0.4mg/mlグリコーゲン加TE液 0.1mlを加えた後、フェノールクロロホルム抽出、およびエタノール沈殿にてウイルスRNA を回収する。これにマイナスプライマー(5'- CCAAGAAACCTTCATTATTTCATG-3') 2μM加HB液(50mM Tris-HCl pH8.3、100mM KCl)11μlを加え 100℃で2分加熱後37℃に10分置く。これに逆転写酵素の反応液10μlを加えて42℃で1時間反応させる。PCR反応はこの全量に、等量のプラスプライマー(5'-ATTCAGATTAGACTGCCTTGGTA-3')を加えたPCR液で94℃15秒、50℃20秒、72℃1分の反応(GeneAmp PCR system 9600を用いる場合)を40サイクル行い、498bpのDNA増幅をアガロースゲル電気泳働で確認している。このプライマーはHAV遺伝子のVP1領域の下流309塩基と2A領域の上流 189塩基を増幅するもので、このうちの 168塩基部分の塩基配列(HM175野生株の3024〜3191番目の塩基)を比較して遺伝子型別分類が行われる。
表に68名のA型肝炎患者の糞便を調べた結果を示した。ELISAによる陽性者は2名( 2.9%)のみで発症直後に採取されたものであった。これに対し、PCR法による陽性者は42名(62%)と高率で、発症後4週を過ぎても可能であった。これらの塩基配列を調べたところ4件がIIIB型で他の38件はすべてIA型であった。型内での相同性は96%と高いが、大きく5グループに分かれていた。同一家族の感染例は 100%の相同性を示すことや、1グループは中国流行株と非常に良く似たものであることなどから、型内の違いでも分子疫学に応用できると考えられた。すなわち、感染経路の解明に利用できる可能性がある。
ELISAでの抗原検出は、発症直後かそれ以前でないと難しいが、当研究所では、保育園や家庭内に患者が発生した時に患者以外の人を調べて、発症の1〜2週間前あるいは不顕性に終わった4名のHAV抗原陽性者を経験している。発症前から感染を知ることができ、迅速に用いれば有用と考える。
愛知県衛生研究所
山下照夫 都築秀明 栄 賢司 鈴木康元
国立感染症研究所 戸塚敦子 森次保雄