特別養護老人ホームにおけるA香港型インフルエンザの流行とワクチン効果

1996/1997の冬季、都内の特別養護老人ホームにおいてインフルエンザの流行が見られた。その際の現行不活化インフルエンザワクチンの有効性について検討した。

対象の特別養護老人ホームの総定床は590床で、二つのビルに配置された12の寮からなる。利用者の平均年齢は81.5歳で、いずれも種々の基礎疾患を有し、35%が寝たきり状態で介護を受けている。例年、希望者に対してワクチン接種を行っているが、本人の希望や担当医師の考え方などにより、接種率は寮によりかなり差がある。1996年秋に現行不活化ワクチン(A山形H1N1、A武漢H3N2、B三重)が接種されたが、接種率は 6.3%〜57%に分布し、平均30%であった。全利用者の12月〜3月にかけての感冒様症状について、担当看護婦が記録し、その結果を集計した。一部の症例ではウイルス分離、抗体価測定を試みた。

観察期間中、ワクチン接種率が14%〜16%であった2寮でインフルエンザ様疾患が多発し、利用者の53%に症状が見られた。咽頭粘液からのウイルス分離を16名で試みたが、発症1〜4日目に検査できた3例で、A香港型インフルエンザウイルス(H3N2)が検出された。16例の抗体価変動を見ると、9例で4倍以上、2例で2倍の抗体価上昇が確認され、A(H1N1)型、B型の抗体価はほとんど変動しなかった。以上の結果から、この二つの寮における発熱疾患の流行がA香港型インフルエンザウイルス(H3N2)によるものと結論された。

この2寮の利用者 100名を、ワクチン接種群16例と、ワクチン非接種群84例に分けて、発症の有無、発熱の程度を比較した成績を表1に示した。ワクチン接種群では、発症者は4名、25%であったが、2例は微熱、2例は無熱で若干の気道症状を伴うのみであった。一方、ワクチン非接種群では、49名58%が発症し、発症者の24%が39℃以上、53%が38℃台の高熱を呈し、頭痛、食思不振、喘息の誘発、喀痰の出現など症状の重い例が多く、4名は発症後1〜16日目に喘息発作、肺炎、全身衰弱などで死亡した。以上から、インフルエンザ流行寮におけるワクチン接種による発症抑制、症状軽減効果が確認されたといえる。

他の10寮でも感冒様症状の流行が散発したが、臨床徴候が軽微な例の2〜3相性流行であったり、小型球形ウイルス感染の流行であったりし、インフルエンザの流行であった可能性は低い。ワクチン接種率が55〜57%であったが、多数の感冒様症状が見られた2寮について、ワクチン接種の有無と発症率、発熱の程度との関係を検討した成績を表2に示した。両群で発症率、発熱程度にほとんど差がなかった。ウイルス学的検討は行えなかったが、インフルエンザ以外のウイルス感染の流行であったと推定される。

東京都老人医療センタ−
稲松孝思 吉田 敦 高橋忠雄

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