1996/97シーズンの日本のインフルエンザ流行状況と1997/98シーズン用ワクチン株

1996年10月7日に福島県でA香港型ウイルスが分離されてスタートした1996/97インフルエンザシーズンは、10月19日〜11月12日に福島県、11月14日に長野県、11月22日に岐阜県、11月25日に石川県で同じ型のウイルスが発見され、流行期の前半はA香港型ウイルスが流行を支配することが予想された。1996/97シーズンは全体的に3つのピークが観察され、第1のピークは12月上旬、第2のピークは1月初旬に集中し、これら第1波、第2波の流行はA香港型に支配されていることが明らかとなった。1996/97シーズンは珍しく第3のピークも同時に観察され、3月中旬にみられたこのピークは、明らかにB型ウイルスによるものであった。しかし、流行予測に反し、B型の活動はA香港型に比べて低く推移していた。

A香港(H3N2)型ウイルス:各県および政令都市の衛生研究所で実施された抗原分析の結果で、3,143株のA香港型ウイルスの血球凝集素の抗原性は、ワクチン株のA/Wuhan(武漢)/359/95に類似しているものが大勢を占め、A/Wuhan/359/95から4〜8倍程度抗原性が変異したものも低い割合で分離されていた(表1)。その代表的な株のA/Fukushima/140/96は、国際的な標準株のA/S.Africa/1147/96と抗原的にほぼ同じであり、この変異の幅をみる限り、平成9年度のワクチン株の候補に入れても良いのではないかという判断もできる。また、遺伝子分析を基礎にした分子進化系統樹の解析では、A/Fukushima/140/96はA/Wuhan/359/95およびA/S.Africa/1147/96と同じ系統樹上の枝に位置し、3つのウイルスは進化学的に同じ起源を持っていることが明らかになった。

Aソ連(H1N1)型ウイルス:日本では、今シーズン1株も分離されなかったが、ヨーロッパ、南米そして中国で分離された。中国を除く他の国での分離ウイルスは、日本のワクチン株であるA/Yamagata/32/89とほぼ同じものが大勢を占め、さらにこれから抗原型が4〜8倍程度変異したものも分離された。この代表的な分離ウイルスが日本のA/Nagasaki/37/96で、これはワクチン株のA/Yamagata/32/89から明らかに変異しており、国際的にはA/Bayern/07/95と命名されている標準株と同じであった(表2)。そして両ウイルスの進化学的位置もほぼ同一場所であった。ただ、上記ウイルスとは全く反応していないA/Wuhan/371/95株が中国南部を中心に分離され、表2の抗原分析において変異の差が明瞭に示されている。日本でもA/Wuhan/371/95と同じウイルスが1996年の非流行期に仙台市で1株分離された。A/Beijing(北京)/262/95もこの範疇に入るウイルスである。

B型ウイルス:中国と日本を除く世界各地で分離されたB型ウイルスの抗原性は、大部分がワクチン株のB/Mie/1/93(B/Harbin/07/94様株)ウイルスと抗原的に似ていた。同時に、極めて少ない頻度でB/Mie/1/93から抗原性が4倍程度変異したウイルスが日本でも分離された。この代表株がB/Tokyo/942/96株である。しかし、新しい動きとして、進化学的にB/Mie/1/93系統と全く異なっているB/Victoria/2/87様ウイルスの系統に入るウイルスが1995年〜1996年にかけて中国の南部を中心に分離された。このウイルスの系統は春に香港で、さらに日本でも2月、3月、4月という時間の経過の中で、数多く分離されてきた。表3表4の抗原分析でも明らかなように、この系統のウイルスは、B/Mie/1/93とは全く反応せず、日本では大阪市でこの系統のウイルスの分離が初めて確認され、同時期に大阪府、次いで奈良県、名古屋市、秋田県、滋賀県、石川県、岐阜県、横浜市、岡山県、広島県、京都市、愛媛県、群馬県、香川県、兵庫県、北九州市と、北は東北から南は九州まで、5月下旬になってもその流行が確認された。1988年以来B型ウイルスは、B/Victoria/2/87様とB/Yamagata/16/88様の変異株の系統に大きく分かれて進化してきた。ところが、中国と日本の春のシーズンを中心に分離されてきたB型変異株は、Victoriaの系統に属することが明らかとなった。

以上の流行予測を参考にして、厚生省薬務局は平成9年6月23日付で平成9年度のインフルエンザHAワクチン製造株とその抗原量を下記の通りに決定した。

 A型株
  A/北京/262/95(H1N1)  300CCA/ml相当量
  A/武漢/359/95(H3N2)  150CCA/ml相当量
 B型株
  B/三重/1/93      150CCA/ml相当量
  B/広東/05/94      250CCA/ml相当量
  合   計       850CCA/ml相当量

国立感染症研究所ウイルス1部呼吸器系ウイルス室

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