氷菓を原因とした小学校のSalmonella Enteritidis食中毒事件−長崎県

Salmonella Enteritidis(SE)食中毒が全国で続発しているが、長崎県でも本年は顕著な流行を示している。7月末現在、細菌性食中毒14件中9件がSEによるものである。原因施設の内訳は家庭内7件、事業所等が2件である。ほとんどの事件で鶏卵の関与が疑われているが、同一町内2小学校の氷菓を原因食品とした食中毒事件を発端に、鶏卵流通のさかのぼり調査によりSE汚染卵を出荷していた養鶏場を突止めた事例を報告する。

この事件は1997(平成9)年6月1日、西彼杵郡西彼町立AおよびB小学校の運動会当日夜から児童とその家族が発熱、下痢等の症状を訴え近在の医療機関を受診したことから食中毒事件として通報された。長崎県西彼保健所の調査により、両小学校すべての患者に共通する食品が校門わきで販売されていたアイスクリームであることが判明した。同保健所で有症者90名の検便を実施した結果、10名の児童からSEが検出された。A小学校(児童数289名)では喫食者数118名中家族等27名を含む97名、B小学校(同165名)では喫食者数150名中家族等13名を含む65名、計162名の患者を出す事件であった。

また、アイスクリーム類製造業者の所在地である佐世保市の調査により、同製造業者が運動会当日に小学校で販売したこと、および現品が残っていることが確認された。同市による氷菓の収去、設備ふきとり、従業員の検便が実施され、同時に収去結果が判明するまで販売を見合わせるよう指導等が行われた。そして、氷菓および従業員検便よりSEが検出された。

また長崎市では、5月31日、1家族9名中8名が食中毒症状を訴え5名が受診するSE事件が発生した。この家族は、前日に半熟卵状態の親子丼を食していたため、冷蔵庫に残っていた鶏卵3個を検査した結果、2個からSEが検出された(長崎市調査)。

この2つの事件はいずれも県内のC養鶏場から出荷された鶏卵が直接間接に関与していることが疑われた。さらに、5月15日にSE食中毒が発生した佐世保市のホテルでも同養鶏場産の鶏卵を使用していたことが判明した。

以上の事実をもとに、家畜保健衛生所の協力を得て、最寄りの保健所により同養鶏場内から直接鶏卵が採取され、衛生公害研究所でSEの汚染調査を実施した。赤卵(160日齢)40個、ピンク卵(220日齢)30個、白卵(700日齢)30個の計100個が搬入された。日齢毎に10個を1検体とし、卵殻と内容物を別々に検査した結果、160日齢は卵殻から、220日および700日齢は卵殻と内容物からそれぞれSEが検出された。

これら3事件由来SE株と養鶏場由来SE株について薬剤感受性およびプラスミドプロファイル試験を行った結果、すべての株で同一のパターンを示した。すなわち薬剤感受性は、11薬剤中エリスロマイシン耐性およびストレプトマイシンに弱い耐性(阻止円径が耐性と中間の境界前後)を、プラスミドは60kbp(?)の単独保有株であった。また、ファージタイピングを国立感染症研究所に依頼した結果、養鶏場鶏卵由来株を含め食中毒関連株すべて1型であった(ただし、養鶏場由来5株中1株だけ6a型であった)。

長崎県では1992(平成4)年頃からSE食中毒の流行が始まり、多くの事件で鶏卵の関与が疑われてきた。しかし、鶏卵から直接SEが検出された事例はなかった。今回は長崎市、佐世保市、県環境衛生課および両市・県立各保健所の徹底した調査により、SE汚染鶏卵を出荷していたと疑われる養鶏場が突き止められ、その養鶏場から直接採取した鶏卵からSEを検出した事例を紹介した。

長崎県衛生公害研究所 宮崎憲明
長崎県西彼保健所   清水権吉

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