毒素原性大腸菌O25:H20による集団下痢症の連続発生−埼玉県

1997年5月と6月、埼玉県において、仕出し屋の給食弁当が原因食品と思われる集団下痢症事例が連続して発生したので、その概要を報告する。

5月27日〜28日にかけて、下痢、腹痛を主要症状とする患者が、埼玉県南部(戸田市、川口市等)、東京都、神奈川県で発生した。戸田・蕨保健所が調査したところ、患者の大部分は管内のF商事の戸田工場で調製された仕出し弁当を食しており、喫食者989名(事業所数126)中 435名発症(発症率44%)していることが判明した。患者の症状は下痢(98%)、腹痛(80%)、発熱(26%)、頭痛(16%)、吐気(14%)、嘔吐(13%)等で、下痢は水様性(93%)であり、血便は認められなかった。

5月29日〜6月5日にかけて、食品11検体(25日と27日の保存食)、調理器具と調理従事者の手指のふきとり21検体、糞便38検体(患者15名、調理従事者23名)の検査を実施した。

細菌学的検査は常法に従った。13名の患者便および6名の調理従事者便から、大腸菌O25:H20を検出した。菌が検出されたものについて、耐熱性エンテロトキシン(ST)は、PCR法で遺伝子の保有を認め、さらに、コリストEIA(デンカ生研)で試験し、すべて陽性を示した。

この事例では、食品、ふきとりから病原菌は検出されず、とくに発症前日(26日)の保存食は入手できなかったので、原因究明は不十分な状況にあった。戸田・蕨保健所は、患者便と調理従事者便から、同一菌が検出されたことで、F商事の戸田工場を5日間(6月2日〜6日)の営業停止処分とした。

その後、6月5日に東京都生活衛生局から「新宿区内の事業所で、川口市内の弁当屋が調製した弁当を喫食した従業員が下痢、腹痛、嘔吐、発熱を呈している」との通報が、埼玉県衛生部生活衛生課に入り、川口保健所で調査した。

6月4日〜7日にかけて(6月6日ピーク)、喫食者1,215名(事業所数134)中196名が、下痢(95%)、腹痛(73%)を主要症状として発病しており、推定原因食は、前述の同じF商事の川口工場で調製した弁当であった。

6月6日〜8日にかけて、食品27検体(2日保存食、3日保存食、4日保存食、5日保存食および残食)、調理器具と調理従事者の手指のふきとり25検体、糞便25検体(患者10名、調理従事者15名)の検査を実施した。

9名の患者便から、耐熱性エンテロトキシン(ST)産生性大腸菌O25:H20が検出された。調理従事者の便、ふきとり、食品からは同菌は検出されなかった。しかし、ふきとり(水道の蛇口、包丁および従事者の手指)、きんちゃく煮(6月5日の残食および保存食)およびぜんまい煮(6月5日の保存食)から、黄色ブドウ球菌(コアグラーゼVII型、エンテロトキシンB型)が検出され、この黄色ブドウ球菌の中毒も疑われる衛生状況であった。

この両事件は、同じF商事の工場(戸田、川口)が原因施設と思われ、5月26日と6月5日の弁当が原因食品である可能性が高い。

埼玉県では、上記2事例より約1年前の1996年8月、幸手市内の飲食店(仕出し弁当屋)が原因施設と推定される毒素原性大腸菌O25:H20の集団下痢症事例(喫食者412名中114名発症)も起こっており、同一血清型の毒素原性大腸菌事例が続いている。この3事例について、それぞれ分離株の薬剤耐性試験(CP、TC、SM、KM、ABPC、NA)を行った。戸田および川口の事例では耐性を示すものはなかったが、幸手の事例はSM耐性であった。さらに、関連性の有無の追究を行っている。

これらの3事例は、原因食品が特定されてない。食中毒究明には、食品からの菌分離が、これからも大きな課題となる。

埼玉県衛生研究所
正木宏幸 斎藤章暢 大塚佳代子
小野一晃 瀬川由加里

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