小学校で発生したC群ロタウイルスによる急性胃腸炎の集団発生−富山県

C群ロタウイルスによる急性胃腸炎は、発生数は少ないが世界各地で報告されている。日本ではそのほとんどが散発例で、集団発生例については数例の報告があるにすぎない。我々は今年の5月、富山県の1小学校においてC群ロタウイルスによる急性胃腸炎の集団発生を経験したのでその発生状況およびウイルス学的検索結果について報告する。

事例の概要:1997年5月13日(火)〜15日(木)にかけて富山県内のY小学校(児童職員 154名)において腹痛、下痢、嘔吐、発熱等の胃腸炎症状の他、一部感冒様症状を訴える患者が46名発生した。患者は1年生〜6年生まですべての学年において発生しており、また職員の内でも有症者が見られた。これらの患者発生状況から学校給食を原因とする食中毒が疑われ、患者、食品、水について細菌とウイルスの両面から検査が行われた。細菌学的検査では既知病原菌は陰性であった。

検査材料:胃腸炎症状を訴える患者6名から糞便を5月16日〜5月17日に採取した。急性期の血液として胃腸炎症状を訴える患者6名から5月16日に2件、5月17日に4件採取した。他に咳、鼻水等の感冒様症状を訴える患者3名から、5月19日に咽頭ぬぐい液と血液を採取した。回復期として約3週間後の6月4日に胃腸炎症状の患者6名と感冒様患者3名からそれぞれ血液を採取した。

検査方法:胃腸炎症状を訴える患者からの糞便材料をウイルス性下痢症検査法に準じて粗精製した後、2%リンタングステン酸でネガティブ染色し、電子顕微鏡でウイルス検索を行った。糞便からのロタウイルスの検出は逆受身赤血球凝集テスト(R-PHA)とRT-PCR法(Baoming らJID 1995;172:45-50)で行った。患者血清中のC群ロタウイルス抗体価はC群ロタウイルス陽性試料を抗原として、逆受身赤血球凝集阻止反応(R-PHAI)で測定した。また、感冒様症状を訴える患者については咽頭ぬぐい液からインフルエンザウイルスの分離と検出が試みられ、急性期と回復期の血清について抗体の測定を行った。

結果と考察:

1)患者発生状況:急性胃腸炎の患者は5月13日午後〜5月15日午前中にかけて発生しており、14日が21名、15日が19名と2日間に集中していた(図1)。患者は1年生〜6年生まで(6歳〜11歳)みられ、職員(23歳〜33歳)からも患者が発生していた(図2)。

2)臨床症状:急性胃腸炎患者43名の臨床症状は、腹痛(60%)、下痢(58%)、嘔吐(53%)、発熱(51%)、吐き気(47%)、脱力感(35%)、倦怠感(30%)が高率で、臥床(23%)、おくび(18%)、頭痛(16%)、悪寒(7%)が見られた。

3)ウイルス粒子の検出およびR-PHAI法による血清反応:電子顕微鏡観察では検査を行った患者6名すべての糞便中にロタウイルス粒子を確認した(表1)。臨床症状で全く下痢症状を呈していない患者糞便中にもロタウイルス粒子を確認した。そこで、A群ロタウイルス検出用キット(デンカ生研)でA群ロタウイルスの検出を行ったが、全例が陰性であった。次に、岡山県環境保健センターで作製されたC群ロタウイルス検出用(R-PHA)キットを用いたところ、電顕でロタウイルスを確認した6名のうち5名が陽性であった。また一部の検体(4検体)についてRT-PCR法でC群ロタウイルスの遺伝子検出を試みた。R-PHA法で陰性であった糞便からは検出されなかったが、 R-PHAで陽性であった糞便からはC群ロタウイルスの遺伝子が確認された。この成績から、岡山県環境保健センターで開発された R-PHA法は非常に簡便で感度も高く有用な方法であることが確認された。感冒様症状の患者の咽頭ぬぐい液からはインフルエンザウイルスは分離されず、また急性期と回復期のペアの血清でインフルエンザに対する抗体の上昇も認められなかったことから、これらの疾患に対して、インフルエンザウイルスの感染は否定された。C群ロタウイルスの感染をさらに確認するためにC群ロタウイルスが確認された患者(M.Y.)の糞便から粗精製した抗原を作製し、逆受身赤血球凝集阻止反応(R-PHAI)法で患者血清のC群ロタウイルスに対する抗体価を測定した。胃腸炎症状を呈した患者6名と咳、鼻水等の感冒様症状を呈した3名の急性期と回復期のペア血清で抗体の上昇が認められた(表2)。牛島らは、A群ロタウイルス感染による胃腸炎患者の急性期のうがい液、痙攣を伴う患者の髄液、血液からA群ロタウイルス遺伝子を検出し、上気道での感染と、中枢神経への侵襲を示唆した。本事例では、胃腸炎症状を示した患者のほかに、感冒様症状を示した患者がみられ、その患者はC群ロタウイルスに対する抗体価の上昇が確認された。この事実はA群ロタウイルスと同様に、C群ロタウイルスの上気道での感染を示唆するものである。今回の事例では患者の発生状況から、感染源として学校給食と水が疑われた。そこで一部の食品(バナナ等)、水(水道水)についてRT-PCR法で遺伝子の検出を行ったが、すべて陰性であった。

以上の結果から、今回の集団発生はC群ロタウイルスによることが判明した。さらに、胃腸炎症状を呈さないで感冒様症状を呈するC群ロタウイルス感染者がいたことが確認された。しかし、今回の調査では感染源および感染経路は明らかにすることはできなかった。

最後に、C群ロタウイルス検出用 R-PHA法キットを分与いただいた岡山県環境保健センターの藤井理津志先生、葛谷光隆先生に深謝します。

富山県衛生研究所
長谷川澄代 松浦久美子 中山 喬
石倉康宏  北村 敬
八尾保健所 安井良夫 金子望博

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