Astrovirus(serotype 1)による急性胃腸炎の集団発生−兵庫県

Astrovirusは様々な動物に分布するウイルスで、ヒトでは下痢症の小児から分離されることがある。従来、カキ等の食品あるいは飲料水に起因するウイルス性下痢症はHuman Calicivirus (Norwalkvirus、HCV )が主体を占めていた。ところが、わが国においてもAstrovirusによる大規模な集団発生が報告されるなど、本ウイルスは必ずしも小児の散発的な下痢症のみならず、食中毒など集団下痢症の原因ウイルスとして重要なウイルスになっていると考えられる。

我々は1996年末にAstrovirusによると思われる、急性胃腸炎の集団発生例を経験した。患者は平均年齢39.5歳(24〜55歳、男性2名、女性15名)の17名で、喫食者全員が何らかの胃腸炎症状を示していた。彼らは12月20日夕刻から宴会を行った1グループで、発症は21日早朝〜23日夕刻に及び、平均潜伏時間は37.2時間(16〜48時間)であった。症状では下痢および嘔吐症状が最も多くそれぞれ12名で、その他にも腹痛や悪寒などが認められた。初発症状としては嘔気が多く(8名)、2名が最高39.5℃および38.2℃の発熱をしていた。細菌検査では食中毒関連の菌は検出されず、患者全員が酢ガキを食べていたことや、その症状からウイルスの感染が疑われた。

17名の患者と調理人4名の便についてウイルスの検索を行った。電子顕微鏡では17名の患者のうち5名から直径28nm程度のウイルス粒子が検出され、その形態からAstrovirus感染が示唆されたが、同時に2名からも直径35nm程度の Calicivirusと思われる粒子が観察された。ただ、後者は“ダビデの星”状であったため、HCV と区別するためRT-PCRを行った。糞便懸濁液上清のポリエチレングリコール沈殿からCTAB法でRNA を抽出、35/36プライマーによるRT-PCR、NV81/NV82 プライマーによるnested PCRを行った。しかし、17名の便からはHCV 特異バンドは増幅されなかった。

次いで、Astrovirusの感染を確認すべく、国立感染研においてLatex 凝集法を行い、患者6名が弱いながらも(タイター1:100)陽性、さらに調理人の1名が陽性となり(1:500)、いずれもserotype 1型であった。ところが、Latex 法と電子顕微鏡の結果が全く一致しなかったため、PCR 法でAstrovirusの検出を行ったところ、9名が陽性となった。これらの検査結果を通覧すると、電子顕微鏡で陽性の5名中3名がPCR 陽性、Latex 法陽性の患者6名中3名がPCR 陽性であった。加えて、当所でも独自にJonassenらの設計したプライマー(AV15/AV12)によるRT-PCRを行ったところ、先の調理人1名を含む9名が陽性であった。

さらに、電子顕微鏡で観察されたウイルスがAstro-virusであることを確認するために、免疫電顕法を行った。ウイルス量が比較的多かった1名の粗精製サンプルから、塩化セシウム密度勾配遠心法でウイルスを精製、これにウサギ抗Astrovirus血清を反応させ、 Protein A−金コロイドで反応後、電子顕微鏡で観察した。その結果、Astrovirusと思われる粒子に金コロイドが抗体を介して結合している像が観察され、本ウイルスがAstrovirusであることが確認された。

以上の結果から、今回の事例はAstrovirus(serotype 1)による集団下痢症と考えられる。ウルスの由来はカキなどの食品か、あるいは調理人か、原因食品の検査ができないため明らかではない。ただ、喫食調査報告によるとAstrovirus陽性の調理人は患者と同一の食材を食べておらず、そして発症していないことなどを考え合わせると、この調理人が感染源とも考えられる。また、過去のSRSVによる集団発生例をみても喫食した全員が有症者となった例は珍しく、Astrovirusが強い感染性を有することが示唆された。

兵庫県立衛生研究所
近平雅嗣 藤本嗣人 増田邦義
国立感染症研究所  宇田川悦子

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