A群レンサ球菌T-22型による集団発生事例−高知県

1997年7月30日、高知県南国市内の観光園芸施設(飲食店)が主催したビール祭りに参加した 319名(来客 280名、職員39名)中77名(被調査者 194名)が7月31日〜8月5日にかけて、発熱、咽頭炎等の風邪症状を呈したA群レンサ球菌T-22型によると思われる集団発生があった。

8月6日に住民より通報があり調査が開始された。検食は保存されていなかった。まず疫学調査と調理場のふきとり検査、および使用水(井戸水をはじめとしハウス屋根の散水、冷蔵庫の排水等)についてA群レンサ球菌、レジオネラ属菌およびウイルス検査を実施した。同時に有症従業員については咽頭ぬぐい液のA群レンサ球菌の検出および血清抗体価(セロディア−ASO:富士レビオ株)を急性期と回復期の2回について検査した。

疫学調査の結果、ビール祭りに参加した来客は施設の得意先が多いためか匿名対応もあり個人情報が十分得られなかった。来客 280名のうち調査できたのは 155名(55%)で、そのうち有症者は51名、発症率は33%であった。喫食調査については、おにぎり、揚げ物、焼き物、麺類等がバイキング形式で提供されていたが、有症者の喫食率が低く原因食品の推定はできなかった。また、この施設はメロンやスイカ、果物ジュースなどを販売しており、通常は食品の調理はしておらず、簡易なハウスで換気設備が無く多数の人員が参加していたことなど特異な状況から飛沫感染も考えられた。一方従業員は39名中有症者は26名で67%の高い発症率であった。また、有症者の家族12名が発病し二次感染と考えられた。表1に従業員26名とその家族7名の症状を、表2には日別の発症者数を示した。

検査結果については、ふきとり検査および使用水からはA群レンサ球菌、レジオネラ菌および咽頭炎が疑われるウイルスは検出しなかった。咽頭ぬぐい液の検査を行った従業員11名中5名からA群レンサ球菌T-22型を、来客3名からも同菌を検出した(他の医療機関での検査実施者2名を含む)。従業員10名のA群レンサ球菌血清抗体価の検査結果を表3に示した。有症者7名中6名はすべて回復期に抗体価上昇がみられ溶レン菌の感染があったことが示唆された。

高知県では感染症サーベイランス事業の対象疾病としてA群レンサ球菌の発生の把握につとめている。A群レンサ球菌T-22型については1990〜91年の2年間では50名(16%)より検出されたがその後はほとんど検出されず、1997年もこの事例までその定点地域で検出はなく、今までに前例のない成人における集団発生であった。発生原因については、当菌に汚染された食品によるものか、濃厚に汚染された空気による気道感染によるものか特定はできなかった。

当初、風邪症状とも思われ保健所への通報が遅れたが、本年5月福岡県で発生したA群レンサ球菌(T-B3264型)による食中毒事件の報告があり、初期調査を行うにあたり指針となった。

食中毒からは対象外の溶連菌感染症だが、季節的に流行時期でない夏季において成人に対し集団発生をしたことは興味深く、今後の調査対応に考慮しなければならないと考える。

高知県衛生研究所
安岡富久 絹田美苗 西岡靖二

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