集団給食施設で発生したSalmonella Saintpaulによる食中毒事例−石川県
1997(平成9)年7月31日、管内の医師から精神薄弱者更正施設の入所者が下痢、腹痛、発熱などの食中毒症状を呈し、検便の結果、サルモネラO4群を検出した旨届出があった。
保健所で、入所者ならびに職員の病状調査、検便を実施するとともに、冷凍保存した調理済み食品、水道水および給食施設等について細菌学的検査を行った。入所者の発症状況については、当該施設の特殊性から、直接に聞き取ることが困難なため、介護指導員に調査を依頼した。
この結果、入所者 151名のうち有症者は23名(発症率15%)であった。介護指導員50名は、9名ずつの交代制によって給食指導にあたり、同時に給食を利用しているが、有症者は3名(発症率6%)であった。26名の患者の臨床症状は、下痢(発現率77%)、発熱(同35%)、腹痛(同19%)、嘔吐(同15%)等であった。また、入所者 151名と調理従事者等を含めた職員61名の検便の結果、入所者37名(うち有症者は20名)からSalmonella Saintpaulを検出し、入所者2名(うち有症者は1名)と職員1名(健常者)からSalmonella Singaporeを検出した(表1)。
また、7月20日〜23日の朝、昼、夕に出された計12食分の給食の細菌学的検査の結果、7月22日の夕食のウナギどんぶりからS.Saintpaul が検出され、発症時期も7月23日〜30日にわたっており(図1)、この集団下痢症は7月22日夕食のウナギどんぶりを原因食品とするサルモネラ食中毒と判断した。
施設では、ウナギの蒲焼きを管内の業者から購入し、再加熱することなく、施設で調製したタレを追加しウナギどんぶりを提供していた。ウナギの蒲焼きを販売した業者は、金沢市の中央卸市場からウナギ活魚を 150匹購入し、調理加工後、54匹分を施設へ搬入し、残りを店頭で販売した。ウナギの蒲焼きを購入した一般住民からの食中毒発生状況は確認できず、またウナギの蒲焼き、タレ等の原材料や運搬容器は残存していないため、汚染源の特定には至らなかった。
一方、本菌の陽性者40名に対し再検便を実施したところ、9月9日においても8名からS.Saintpaulが検出され、長期にわたり保菌されることが確認された(表2)。
また、食中毒発症状況の調査結果から、その分布に複数のピークが認められ、二次感染の発生が疑われた(図1)。入所者の発症状況について、直接聞き取りができなかったため、調査結果に偏りがあったとも考えられるが、職員や入所者同士が頻繁に、また密接に接触する精神薄弱者更正施設という施設の特殊性から、さらに、精神薄弱者の身体的条件からも、二次感染の発生した可能性は否定できなかった。
石川県能登北部保健所
吉田守孝 久堂寛久 橋本喜代一 泉 紀子
松前千代子 藤崎一男 上谷博宣
石川県能登中部保健所
梶 哲夫 高岡菊江 伊川あけみ
石川県保健環境センター 西 正美