リジン脱炭酸陰性のSalmonella Enteritidisによる食中毒事例−広島市

事件の概要:1997年7月15日〜17日、病院給食によるサルモネラ食中毒が発生した。患者は45名で、7月15日朝食のあえもの(納豆、とき卵、ネギ)が原因食品であった。給食施設は、7月16日〜20日の間、業務禁止の行政処分を受けた。

患者は60歳以上の高齢者が多く、30名(67%)であった(表1)。症状は発熱87%、下痢78%、腹痛38%の順に多く、患者発生のピークは7月16日6〜9時で(80%)、潜伏期間は平均25時間であった。

患者36名からリジン脱炭酸陰性のSalmonella Enteritidis(SE)を検出し、病因物質として特定した。また、あえものから同一の菌を検出し、原因食品として特定した。なお、本菌は11種の薬剤にすべて感受性であった。

事件の探知と調査:7月16日午前9時ごろ、多数の入院患者が食中毒様症状を呈しているとの連絡が病院からあり、保健所が調査を開始した。7月16日〜17日にかけて、患者便36検体、従事者便18検体、検食および原材料60検体、施設のふきとりおよび水33検体が衛生研究所に搬入され、食中毒起因菌の検索を行った。調査結果:患者便36検体のすべて、従事者便3検体、検食2検体から本菌を検出し、ふきとり・飲料水からは本菌を検出しなかった。従事者は毎月2回の検便を行っており、直前の検便でも本菌は検出されていない。事件後に本菌が検出された3名は、あえものを取扱ったり味見しており、そのうち2名が発症している。

検食は、7月15日朝食のあえもの(納豆・とき卵・ネギ)から 120万個/g、7月15日昼食の中華麺の具(もやし・蒸しかまぼこ・ネギ)から 100個未満/g、本菌を検出しているが、汚染菌量がわずかであることから、中華麺の具は調理工程上の二次汚染と考えられた。あえものに使用したとき卵は、前日に割卵する等の取扱いの不備がみられ、これが本事件の発生要因と考えられた。

施設は全体的に老朽化しており、特に床や排水溝のひび割れと清掃不十分のため汚水が流れにくくなっていた。給水施設は特に問題はなく、残留塩素は0.3ppmであった。取扱いの面では、ボール等の器具の消毒・使い分けに不備がみられ、一部の原材料について、検食が保存されていなかった。

本菌の増菌・分離・同定には、 EEM培地、セレナイト培地、 DHL寒天、MLCB寒天、 TSI培地、 LIM培地等を使用した。なお、本菌は、本市において1996年まで分離されていなかったが、1997年になって、散発事例4月1例、9月2例、10月1例の合計4事例から分離している。リジン脱炭酸陰性のSEによる食中毒事例は、1969年に静岡県の事例があるが、全国でも報告例がほとんど無く、特異的な事例であった。

薬剤11種(SM、CP、AM、KM、TC、NA、FOM、CAZ、PAPM、TFLX、MINO)について、分離株26株の感受性試験を行った結果、全菌株がすべての薬剤に感受性を示した。

広島市衛生研究所
石村勝之 児玉 実 笠間良雄
山岡弘二 荻野武雄

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