帰国時のマラリア検査事業について

マラリアはWHOの監視疾病として報告義務があるとともに、届出伝染病(準検疫伝染病)に位置づけられている。わが国の輸入マラリア症例は増加傾向にある。マラリアは国内に常在しないため、医師に診断、治療の経験が乏しく、特に熱帯熱マラリアにおいては診断が遅れ、重症化し、死亡する例もある。このため、マラリア流行地域からの渡航者が多く利用する空港検疫所(成田、関西)において、スクリーニング検査を実施し、感染が疑われた場合には早期に適切な治療を受けるよう、十分な情報提供と指導を行うことを目的にマラリア検査事業を実施することとした。

対象は感染様式、潜伏期間等から、原則として、マラリア流行地域に1泊以上滞在し、1週間以上経過して発熱などがあり、本事業の趣旨を理解して検査を希望する入国者で、十分なインフォームド・コンセントが得られた者である。

検査方法としては、検疫所における入国者に対するスクリーニング検査であること、簡便な手法でしかも迅速に結果が得られ、検査精度の高いものが必要であることから、採血によって得られた血液を用い、マラリア原虫検査および熱帯熱マラリア抗原検査の2法を併用して実施することとした。

1)アクリジン・オレンジ染色法(AO法)によるマラリア原虫検査:血液塗末標本をアクリジン・オレンジ染色液で処理後、蛍光顕微鏡で観察し、マラリア原虫に特徴的な像を検索する。

2)熱帯熱マラリア抗原迅速検査(パラサイトF):パラサイトFは、熱帯熱マラリアのヒスチジン・リッチ蛋白II(pfHRP II)抗原を迅速に検出する免疫クロマト法キットである。溶血後、マウス抗体で抗原を捕捉後、色素標識ウサギ抗pfHRP II抗体を反応させる、サンドイッチ法による迅速検査キットであり、熱帯熱マラリアのみを特定することを目的としている。

検査結果はマラリア検査研修を受けた者が中心となり、2名以上で判定し、熱帯熱マラリア抗原迅速検査は4時間以内に結果を依頼者に知らせるとともに、AO法によるマラリア原虫検査は郵送等により通知することとしている。

具体的指導としては、

1)AO法およびパラサイトFのいずれも陽性の場合:熱帯熱マラリアに感染していることが強く疑われるため、判定結果を渡し専門医療機関を紹介し、直ちに受診するよう指導する。

2)AO法は陽性、パラサイトFは陰性の場合:熱帯熱マラリア以外のマラリアに感染していることが疑われるため、判定結果とともに参考までに専門医療機関を紹介し、受診するよう指導する。

3)両法共に陰性の場合:マラリアについては否定的であるが、潜伏期間内の陰性のこともあり、帰国後発熱等の症状が再発するようであれば医療機関を受診するよう指導する。

また、検査結果が陽性の場合には陽性者の居住地の保健所長に電話連絡することとしている。検査実績および結果は、検疫所業務管理室において取りまとめることとしている。

成田空港検疫所長 鶴田憲一

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