SRSVが疑われた急性胃腸炎の施設内集団発生―大阪市

1997年2月に大阪市内の施設(知的障害者更生施設と特別養護老人施設が同じ建物にある)において発熱、嘔吐、下痢を主徴とする集団胃腸炎事件が発生し、患者便からSRSVを検出したので報告する。

本施設は6階建ての建物で2〜3階が知的障害者更生施設、4〜6階が特別養護老人施設となっており、入園者定数はそれぞれ80名と102名である。両施設の食事は1階の厨房ですべて作られており、入園者は各階にある食堂でそれぞれ食事をしている。喫食者数は日々変動し、事件発生時では知的障害者更生施設で72〜94名、特別養護老人施設で103〜114名、職員が29〜57名であった。患者数は2月13日〜28日の16日間に知的障害者更生施設から47名、特別養護老人施設から44名、職員が2名の合計93名であった。

当初、2月23日に特別養護老人施設4階入園者を対象とした誕生会があり、参加者36名中20名が24日頃から胃腸炎症状を呈したため、同会での食事を原因とした食中毒の疑いがあるとして届けられた。また2月19日〜21日にかけて同一建物内の知的障害者更生施設の入園者36名が同様の症状(医療機関でインフルエンザと診断されていた)を呈しており、知的障害者更生施設の患者から感染が拡がった疑いもあった。そこで23日の誕生会の食事に限定せず、調査を実施した。本施設内のふきとり25検体、誕生会に出された食品の保存食、2月15日と17〜23日の8日間分の保存食、調理従事者便10検体、患者便47検体について食中毒菌の検索を実施したが、特定の食中毒菌は検出されなかった。

その後、ウイルス検査が可能であった患者便10検体について培養細胞を用いたウイルス分離、電子顕微鏡(EM)によるウイルス粒子の検索、RT-PCR法によるSRSV遺伝子の検出を実施した。RT-PCR法はAndoらのG1、G2プライマーセットを用いた方法を実施した。ウイルス検査の結果、ウイルス分離およびEMはすべて陰性であったが、RT-PCR法で10検体中4検体からSRSV遺伝子を検出した。さらにSRSV遺伝子を検出した4検体についてプローブによる型別を行ったところ、すべてP2B 型(Snow Mountain agent type)であった。患者発生状況とSRSV検出結果はに示した。

両施設の患者からSRSVを検出したこと、本事例の初期(2月13日)、中期(2月17・19日)、後期(2月25日)発症の患者からそれぞれSRSVを検出し、検出したSRSVがすべて同じP2B 型であったこと、患者の臨床症状等からSRSVが病原因子として強く疑われた。また患者発生パターンから両施設における患者発生のピークが異なり、両施設共ほぼ全期間にわたって患者が発生していること、患者発生期間が長期間であることから、本事例は共通の食品を介して発生した事例ではないと考えられた。SRSVに汚染された糞便や嘔吐物がヒトの手や指を介して施設内へ感染が拡大した集団胃腸炎事件の報告もあり、本事例も同様にSRSVの感染が拡がった事例であると推察された。

1997(平成9)年5月に食中毒の原因物質としてSRSVが加えられたが、SRSVは食中毒様の伝播以外に施設内において人から人へ直接感染して拡がる場合もあり、本事例のように施設内で発生した集団胃腸炎には適切に対応していくことが必要である。また本事例の発生初期にインフルエンザと診断された患者からSRSVが検出されたことから、冬期に多発する下痢、発熱等の症状を呈するいわゆる“おなかにくるかぜ”の場合、インフルエンザウイルスだけでなくSRSVも病原因子として疑う必要がある。

大阪市立環境科学研究所
入谷展弘 勢戸祥介 春木孝祐
大阪市環境保健局保健部食品衛生課 浅香策雄

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