わが国におけるアデノウイルス7h型の検出

1996年夏期より愛知県で、抗アデノウイルス3型(Ad3)中和血清でも抑制がみられる同定困難なアデノウイルス7型(Ad7)株が検出されている(本月報Vol.18、No.4)。これらの株について、ゲノムおよび中和能の解析を行ったので報告する。

発疹症/不明熱、不明熱、感冒・上気道炎の患者(1歳、7歳、5歳)のふん便、咽頭ぬぐい液より分離され、Ad7と推定された3株、96A90、96A799、96A2937について、A549細胞でplaque purifyした後、18種類の6塩基認識制限酵素により、DNA切断パターン分析を行った。比較対照として、Ad3p、Ad7p、Ad7a、およびわが国で1992年に分離されたAd7dの383株、1995年から始まったAd7の流行のBal株を用いた。

図1BamHIによる切断パターンを示す。Li & WadellらによるBamHIを基準とする国際分類に従うと1)、90、 799、2937のgenome typeはいずれも1984年からアルゼンチンで検出されている7hと同型と判定された2)。アルゼンチン株との相違はXhoI切断パターンのみであった。3株間では、2937においてHindIIIの1切断点が消失していた以外はすべて一致していた。

また、アデノウイルス subgenus BのE3 regionの 7.7kd ORFは欠失が起こりやすく、Ad3p、7p、7a、7d(383)、7hでサイズがかなり異なることが、文献3)および我々の塩基配列解析から明らかになっている。そこで今回の3株についても、その領域を増幅するPCRを行い、productのサイズを比較した。その結果、90、799、2937の推定サイズは、7a(332bp)、3p(317bp)、7p(316bp)、さらに7d(281bp)より短く、アルゼンチンの7h株(259bp)とほぼ一致するものであった(図2)。

抗Ad7血清と抗Ad3血清(各2種類、デンカ生研製およびATCC製)を用いて中和反応を行ったところ、Ad7p、7a、383、Balでは、抗Ad7血清と抗Ad3血清の中和抗体価の差が29以上であったのに対し、90、799、2937では、23-5であった。

以上の検討より、わが国でもAd7hが検出されることが初めて明らかになった。Ad7hは、アルゼンチンで乳幼児の重篤な急性下気道炎症例より初めて分離され、当初は3型と報告されたが、後に7型と訂正された株である。南米南部(アルゼンチン、チリ、ウルグアイ)では7cに代わって現在dominantな流行株になっているが、その他の地域からの検出はまだ報告がない。致死症例から多く分離され、virulenceが強いと疑われている。わが国の3株が採取されたのは南米出身者の多い地域でもあり、DNA切断パターンおよびE3 7.7kd ORFのサイズの分析から、南米のAd7h株が侵入した可能性が高いと推定される。

1)Li Q, et al. J. Med. Virol. 1996;49:170-177
2)Kajon AE, et al. J. Med. Virol. 1990;30:73-76
3)Kajon AE and Wadell G. Virol. 1996;215:190-196

国立感染症研究所感染症情報センター
橋戸 円 向山淳司 稲田敏樹 井上 栄
愛知県衛生研究所ウイルス部
都築秀明 山下照夫 栄 賢司

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