トリインフルエンザの人からの分離−香港

以前はトリしか感染しないと考えられていたインフルエンザウイルスA(H5N1)型に香港で人が感染し発病している。

1例目は1997年5月に呼吸不全で亡くなった3歳の子どもで、ウイルスはインフルエンザA型と判明したが、従来の検査試薬では亜型については決定できなかった。8月までに米国CDC 、オランダロッテルダムの国立インフルエンザセンター、英国ロンドン国立医学研究所でそれぞれ独自にA(H5N1)と確認した。8月と9月に行われた香港厚生省とCDCの調査により、実験室内で他のウイルスが混入したという可能性は除外された。

確認例

1.3歳男児:健康だったが、5月9日発症(発熱、咽頭痛、咳嗽)、15日入院、18日集中治療室へ移動、21日ウイルス肺炎からの急性呼吸不全で死亡。19日に気管吸引物からA(H5N1)分離。病気の鶏との接触があったもよう。

2.2歳男児:先天性心疾患あり。11月6日発症(発熱、咽頭痛、咳嗽)。肺炎として7日入院。何事もなく9日退院。8日の咽頭ぬぐい液からA(H5N1)検出。

3.13歳少女:健康だつたが11月20日発症(発熱、咽頭痛、咳嗽)、26日肺炎で入院。27日集中治療室に移動し、人工呼吸器装着。現在入院中。28日の気管吸引物からA(H5N1)分離。

4.54歳男性:健康だったが11月29日発症(発熱、咳嗽)、29日肺炎で入院、状態悪化し12月5日死亡。12月1日の気管支肺胞洗浄液からA(H5N1)検出。

5.24歳女性:12月4日発症(発熱、咽頭痛、咳嗽、めまい)、7日入院、9日集中治療室に移動し、人工呼吸器装着。現在入院中。9日の気管吸引物からA(H5N1)分離。

6.5歳女児:12月7日発症(発熱、鼻炎、咳嗽、咽頭痛、嘔吐)。現在症状は軽く、安定している。10日の咽頭ぬぐい液からA(H5N1)検出。

7.2歳男児:12月12日発症(発熱)し入院。状態良好。6例目のいとこで6例目の女児はこの男児の家や家族のところへよく来ていた。16日の培養でA(H5N1)陽性。

可能性のある例

37歳男性:11月17日発症。肺炎で24日入院、12月9日退院。ウイルス分離用検体は得られなかったが血清診断(最終確認されていない)では陽性。感染を確認するのに必要な中和試験は済んでいない。

3歳女児:7例目の姉(6例目のいとこ)。12月13日発熱し入院しているが、状態は良好。実験室診断(最終確認されていない)でA(H5N1)陽性だがウイルス分離の確認は済んでいない。

進行中の調査:香港厚生省とCDCとの調査の目的は第1に、新しい患者の確認と可能性のある感染源を人→人、トリ→人感染および両方の可能性とその程度も含め、確認することである。血清診断、呼吸器疾患との関係、鳥への暴露、患者への接触の程度などについて症例−対照調査が行われている。1〜6例目の患者については香港の異なった場所に住んでおり、互いの接触はない。6、7例目と3歳の疑い女児例は互いに接触があり共通の暴露がある。抗原的、遺伝学的に解析中である。インフルエンザの患者発生調査はすべての公的医療機関の外来まで拡大中。香港での鳥の調査では3月の養鶏場のA(H5N1)検出以来持続してA(H5N1)がみられている。

MMWR編集記:感染源と伝播様式をつきとめることが調査では大切であるが、香港住人は生きた鳥への接触の機会が多いため困難もある。今回のA(H5N1)感染の患者は非常に重篤な印象を与えるが、サーベイランスが主に病院でなされていて、軽い例が見過ごされている可能性もある。このインフルエンザが世界的に広まり大流行するのは、多くの人が抗体を持たず、人→人感染が持続する時である。

世界的な流行の可能性についてはまだ明らかになっておらず、実験室ではワクチン候補株の検討を始めているが、現時点では商業的なワクチン生産の計画はない。

2種類の抗ウイルス薬アマンタジン、リマンタジンはウイルスの増殖を抑え、インフルエンザA型の予防や治療に有効である。耐性獲得は治療中に起こるが、耐性ウイルスは日常のサーベイランスの中でほんのわずかにみられるのみである。香港から分離されたものについては薬剤感受性がある。

香港での650万人の集中サーベイランスにもかかわらず、患者は少ない。急性呼吸器疾患の増加は認められていない。しかし、香港住人や渡航者の感染の危険は正確には計算できず、時間とともに変化することを香港に旅行しようと思っている人は考慮すべきである。香港以外ではヒトのA(H5N1)は確認されておらず、世界的な様々なインフルエンザの監視が重要である。世界ではA(H3N2)、A(H1N1)やB型が流行している。

(CDC、MMWR、46、No.50、1204、1997)

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