日本で発見された新しい肝炎ウイルス(TTV)

少なくとも2種類以上の非A、非B肝炎ウイルスが存在することが、以前から多くの動物実験によって指摘されていた。1983年にBradleyらはヒトに非A、非B肝炎を起こした血液製剤を使って、チンパンジーで感染実験を行った(J. Infect. Dis. 1983;148:254-65)。彼らはその中にエンベロープを持ち、クロロフォルムに感受性の感染因子の他に、クロロフォルムに耐性でエンベロープがない感染因子を証明した。1989年にC型肝炎ウイルス(HCV)が発見されて、特異的に抗体が測定できるようになってから見直してみると、クロロフォルム感受性の非A、非B肝炎ウイルスはHCVであることが判明した。彼らが動物実験で発見した、クロロフォルム耐性の非A、非B肝炎ウイルスは、Fields Virology(第3版、1996年、p.49)に未知の肝炎ウイルスという意味で、X型肝炎ウイルス(HXV)としてごく簡単に記載されているが、その詳細はなお不明である。

また、ヒトに非A、非B肝炎を起こした感染源を使ったマーモセット感染実験でも、血清トランスアミナーゼの上昇に伴って、血中と糞便中にエンベロープを持たないウイルス様粒子が免疫電子顕微鏡でしばしば観察されている。直径22nmほどで、パルボウイルスとの形態学的類似性を指摘されている。

昨年秋に日本から、原因不明の輸血後肝炎に伴う、エンベロープを持たない一本鎖DNAウイルスが発表された(Biochem. Biophys. Res. Commun. 1997;241:92-7)。このウイルスは、発見のきっかけとなった患者の頭文字にちなんでTTウイルス(TTV)と名付けられたが、偶然にTransfusion-Transmitted Virusをも象徴している。TTVは約 3,700塩基にわたって核酸配列が決定されているが、既知の核酸配列、アミノ酸配列との類似性がきわめて乏しく、新しいウイルスと考えられる。エンベロープを持たず、環状構造をとらない一本鎖のDNAウイルスという点で、動物ウイルスの中ではパルボウイルスに似ている。

TTVのDNAは、特異的なプライマーを使ったポリメラーゼ連鎖反応で測定することができる。輸血後に非A、非B肝炎に罹患した3人の患者血中には、TTV由来のDNA がトランスアミナーゼの消長に一致した力価で認められた。うち2人はTTV DNAの消失に伴ってトランスアミナーゼが正常化したが、1人はTTV感染から離脱することなく、トランスアミナーゼ上昇が持続した。

TTVのDNA陽性はウイルス感染が疑われるが、原因不明の劇症肝炎患者19例中9例(47%)と慢性肝炎・肝硬変・肝癌患者90例中41例(46%)で証明された。血液によって媒介されるウイルス感染の危険が高いと考えられる血友病患者、人工透析患者でもそれぞれ68%、46%の高率に陽性であった。一方献血者では290人中34人(12%)にみられた。TTV由来のDNAは、肝炎患者の肝臓中に血清中と比べて10〜100倍もの高濃度で検出されたので、TTVは肝臓に感染し増殖すると考えられる(Hepatol. Res. 1998;10:1-16)。

パルボウイルスは加熱に対して非常に安定であり、不活化されにくいことが知られている。TTVは動物のパルボウイルスと同様に糞便中に排泄される。TTVは本来輸血後肝炎患者で発見され、血液を介して感染することに疑いはない。しかし、糞便を介して経口的にも感染することができるのであれば、感染が一般社会に深く浸透し、広く蔓延する可能性が大きい。

また、TTVはDNAウイルスでありながら、核酸配列の変異がきわめて大きいことが判明した。TTVには互いに30%も核酸配列が異なる少なくとも2種類以上のゲノタイプが存在し、それらがさらに15%ほど異なる2つ以上のサブタイプに分かれる。従って、TTVのDNA測定に際しては、プライマーを慎重に選択する必要がある。HCVにみられたように、異なる種類のTTVが世界の国々に分布して、またそれらが肝臓病の進展と薬剤耐性にも関係している可能性があろう。

以前から肝炎は、糞便を介して感染する伝染性肝炎(A型、E型)と、主として輸血によって感染する血清肝炎(B型、C型)とに二分されてきたが、TTVはこの両者をつなぐ架け橋となるであろう。

アジア、特にタイでは肝炎後に再生不良性貧血が発症する例が多く報告されているが、G型肝炎ウイルスを含め、既知の肝炎ウイルスとは直接の関係がないとされている。しかし、肝炎後再生不良性貧血を起こす未知の原因ウイルスは、A型肝炎ウイルスと同じ分布と感染経路をとることが疫学的に予測されており、TTVとの関連が注目される。

TTVは過去に動物実験で観察されたHXVと、はたしてどのような関係にあるのであろうか?世界各国におけるTTVの分布ならびに地域特有のゲノタイプと、肝炎のみならず他疾患との関連について、今後多くの研究報告が期待される。

宮川庚子記念研究財団 宮川侑三

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