エンテロウイルス71型感染が原因で急死したと考えられた3症例―大阪市

手足口病はコクサッキーウイルスA16型、A10型、エンテロウイルス71型(EV71)を原因ウイルスとし、乳幼児・小児に流行する軽症の急性発疹性疾患である。また、EV71は髄膜炎・ポリオ様麻痺などの中枢神経疾患が知られ、流行によって手足口病を伴う場合と伴わない場合がある。EV71による大きな流行が起こり、多数の重症例と急性死亡例の出たことが今までに世界中で報告されている。今回、当院でも1997年7月〜9月にかけて手足口病の経過中に死亡した2例と、EV71が分離された1例を経験したので報告する。

症例1:9カ月女児。兄と姉が手足口病に罹患し、自身も7月11日から発熱と発疹が出現したが、一般状態は良好であった。14日午後からぐったりし、近医を受診した。呼吸困難がみられたためY病院へ入院し、気管内挿管と人工呼吸を受けたがショック状態を脱しないため当院救急救命センターへ転送された。入院6時間後に死亡した。胸部レ線で肺水腫がみられたが心拡大はなく、心臓超音波検査では心筋の収縮不全がみられた。胸部のみの剖検が許可されたが、明らかな心筋炎は認められなかった。

症例2:15カ月男児。8月17日手足口病に罹患したが、元気にしていた。21日未明から元気がなかったが、意識は清明であった。21日朝、近医を受診したが、医院の前で嘔吐後、心肺停止となった。当院へ搬送され蘇生されたが、入院4時間後に死亡した。髄液細胞増多(106/3、単核球優位)がみられた。

症例3:5カ月男児。9月25日から発熱したが、元気にしていた。28日朝から多呼吸・頻脈で視線が合わず、急病診療所を受診、二次後送病院で気管内挿管を受け、当院へ転送された。治療に反応せず12時間後に死亡した。髄液細胞増多(1220/3)、肺水腫が認められた。また、入院後肝機能異常、播種性血管内凝固症候群(DIC)などの多臓器不全の所見がみられたが、二次的な事象であろうと考えられた。

症例1、2からのウイルス分離は陰性であったが、症例3からはEV71が分離された。

考察:今回の症例を、今までに報告されたEV71による重症例と比較検討し考察してみた。古くは1975年にブルガリアで乳幼児を中心としたEV71の集団発生例がある。この時、手足口病を伴わないポリオ様疾患が多発し、延髄型68例(死亡44例、生存24例)、ポリオ様麻痺52例、無菌性髄膜炎 545例が報告されている。死亡例は、症状発現後10〜30時間で死亡するという急激な経過が特徴で、多くは剖検にて延髄や脊髄の灰白髄炎(poliomyelitis)がみられ、病巣から高率にEV71が分離された。

1997年4月〜7月にかけてマレーシアのボルネオ島サラワク州にて手足口病の流行があり、31人の乳幼児が死亡した。手足口病様の発疹と2〜3日の発熱後に急に呼吸循環不全となり、入院後24時間以内に死亡したと報告されている。当初、B群コクサッキーウイルスによる心筋炎と考えられていたが、明確な根拠は公表されていない。一方、マレー半島では4例の乳幼児の急死例(うち手足口病1例、口内炎1例)があり、剖検にて延髄を中心とした脳幹脳炎と診断され、全例EV71が神経組織から分離されている(Lam Sai Kit, Pro-Med-mail)。サラワクとマレー半島の死亡例はいずれも肺水腫があったという。

我々の例も含め、これらの報告に共通しているのは、ポリオに比し、EV71ではポリオ様麻痺よりも延髄型(bulbar form)が多く、肺水腫を伴い急激な経過で死亡するという臨床像であろう。

症例3から分離されたEV71は国立感染症研究所でシークエンスされ、サラワクの死亡例より分離されたEV71にきわめて近い塩基配列であることが明らかになった。今後、EV71の疫学調査とウイルス学的解析を行い、重症化の要因を解明することが重要であると考えられた。

大阪市立総合医療センター・感染症センター小児科
塩見正司 外川正生
大阪府立公衆衛生研究所ウイルス課
山崎謙治 奧野良信

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