ヒトの狂犬病、1997−米国・テキサス、ニュージャージー州

症例1(テキサス、71歳男性)−10月3日:不快感、食欲不振、左顔面および耳から胸に広がる鋭い痛み。7日:CTスキャンにより、洞炎、左声帯麻痺所見。8日:一般処置としての抗生物質とベンゾジアゼピンを投与。10日:発熱(39.8℃)、眼球運動の麻痺、飢餓感、血液所見の変化、両側の脳機能麻痺。11日:血圧低下、筋弛緩。12日:狂犬病を疑ったが中和抗体価陰性。16日:昏睡。17日:死亡。死後脳材料の蛍光抗体染色でウイルス検出。RNA 解析によりコウモリ(silver-haired、eastern pipistrelle)由来変異株とされた。患者の妻への問診により、8月3日にコウモリと接触したことを確認。

症例2(ニュージャージー、32歳男性)−10月12日:右肩・首痛、吐き気、寒気、喉の乾き。15日:幻覚、筋痛症、発熱(40℃)。血液、髄液所見の異常があり隔離。17日:狂犬病を疑い生検材料をCDC に送付。ウイルスに対する中和抗体は陰性。20日:頸部生検材料より蛍光抗体でウイルス検出。RT-PCRにより唾液と涙からウイルスRNA を検出(silver-haired、eastern pipistrelle 由来変異株)。23日:重度の血圧低下と腎機能障害により死亡。患者の妻への問診から、7月上旬にコウモリとの接触の機会があったことを確認。

米国では、1997年にヒト狂犬病が4症例報告されている。ニュージャージー州では1971年以来の症例であるが、テキサス州では12番目の症例である。テキサス州で報告された12例中7例(58%)が犬とコヨーテ、今回の症例を含む3例(25%)がコウモリ由来ウイルスである。米国では1980年から36例が報告されているが、実に21例(58%)がコウモリ由来である。近年の疫学調査は、コウモリによる感染はごくごく軽い咬傷で十分可能であることを示唆しており、1980年から報告されているコウモリによる感染例では、わずか1例のみに咬傷が確認されている。他の肉食獣の場合と異なり、感染の事実を知ることが困難なため、暴露・接触の可能性を持ったすべての人は、適切な機関にて速やかに狂犬病の診断・処置を受けるべきであるとしている。

Advisory Committee for Immunization Practicesは暴露後処置として、ワクチン未接種者には20 IU/kgのhuman rabies immune globulin(HRIG)を可能な限り咬傷部および周辺部に擦り込み、残量をワクチン接種部位から離れた部位に筋注。ワクチンには、1ml human diploid cell vaccine(HDCV)、rabies vaccine adsorbed(RVA)、purified chick embryo cell culture (PCEC)のいずれかを用いる。初日と3、7、14、28日目に接種。また、ワクチン既接種者に対してはHRIG処置はせず、HDCV、RVA、PCECいずれかの1ml接種を初日と3日目に行うことを推奨している。

(CDC、MMWR、47、No.1、1、1998)

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

iasr-proc@nih.go.jp

ホームへ戻る