5カ月児のAIDS発症をきっかけに明らかとなったHIVの家族感染例

Cytomegalovirus (CMV) 感染より後天性免疫不全症候群(AIDS)の診断に至った5カ月齢長男をきっかけとして、両親のHIV 感染も明らかとなった1家族例を経験した。わが国のHIV 感染状況、今後の産科・小児科医療のあり方などを考える上できわめて重要であると考えたので報告する。

症例は、日本人を両親とし、妊娠経過を観察されていた開業産婦人科医院において児頭骨盤不適合のため帝王切開で出生。1カ月健診ではとくに異常を指摘されていない。生後2カ月半頃、咳嗽・多呼吸のためA市民病院入院、細気管支炎の診断で人工換気施行、 CMV感染が明らかとなりgancyclovir (GCV) 投与などで3週間後に抜管。治療の継続のため生後5カ月に当科に転院。発育不良・肝障害などがあり、さらに呼吸障害が再び出現したため挿管およびGCV投与を再び行った。T細胞機能・B細胞機能は保たれていたものの、CD4 1.0%、CD8 35.1%のため行ったHIV抗体検査では、PA、 EIA抗体ともに高値。確認検査ではWBで gp120 (±)、 gp160 (+)のバンドが見られた。病原検査ではPCR:core、 pol、 envすべて陽性、p24:抗原陽性であり、以上より本例を AIDS発症 HIV感染と診断した。

それまでに両親とも特に自覚症状はなかったが(母親は患児が当院に入院した頃より微熱・倦怠感などが出現した)、同意のもとに両親のHIV検索をすすめたところ、父親は抗体陽性・抗原陰性、母親は抗体・抗原ともに陽性であることが判明、両親のHIV感染の治療も開始した。

患者および患児の血液に直接接触したと思われる医療関係者についてもHIV 検索を行ったが、陽性者はいなかった。

これまでわが国では母子感染の報告は少なく、またそのほとんどは母親の感染が明らかになった後に出生児の感染が疑われるものであり、児の発症から両親の感染が明らかになった事例はきわめて稀である。わが国においてもHIV感染様式の変化に注意すべきであり、また日常の産科・小児科診療の中にもHIV感染に注意せざるを得ない状況になってきたことを示す症例であると考えられた。

慈恵医大第三病院小児科
宮塚幸子 及川 剛 永倉俊和
国立感染研・感染症情報センター 岡部信彦
国立感染研・エイズ研究センター 吉原なみ子

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