胃癌手術で偶黙発見されたBolbosoma属鉤頭虫の人体感染の1例
Bolbosoma属は海産哺乳動物に寄生する鉤頭虫で海産魚を中間宿主としており、人への感染は偶然に中間宿主を摂取することによる。現在まで人体症例は3例報告されているがいずれも本邦例であり、海産魚を刺身として食する習慣に起因するものである。今回はこれまでの報告例とは経過を異にする本邦第4例目の症例を経験したので報告する。
患者は67歳の男性で、高知県土佐清水市に在住する漁師である。これまでに急性腹症等の特記すべき既往歴はない。近医で進行胃癌と診断され、治療目的で外科入院となる。1997(平成9)年8月6日胃全摘術を施行した際、Treitz靭帯近傍の腸間膜に米粒大の白色調、弾性硬の腫瘤を認め、腹膜播種と考え切除したが、この腫瘤の病理所見で腹膜播腫ではなく、虫体を含む肉芽組織であることが確認された。体長は4mm+α(後部が欠けている)、体幅 290〜 310μm 、頭部は頭球状をなし、その側部表面には6列ほどの棘を認め、またこの球部の中央には外面を厚い筋肉層におおわれた吻鞘を認めた。球部から体部への移行部にはくびれがあり、体部の途中には2個の睾丸を認めた。以上の所見よりBolbosoma属鉤頭虫の幼若雄虫であると同定された。
これまでの報告(表)ではいずれも虫体が腸管壁を貫くことによる急性腹症で発症、緊急手術が施行されているが、本症例では胃癌の手術の際偶然に発見された特異な経過であった。虫体を含む肉芽組織の存在部位から恐らく小腸壁を貫いたものと考えられるが、急性腹症の既往はない。その原因としてこれまでの報告例に比し虫体が幼虫形で非常に小型であることが関与したと考えられる。
香川医科大学 森 誠治 関亦丈夫 前場隆志 原田正和 村主節雄
国立感染症研究所 影井 昇