ポリオ根絶証明のためのサーベイランスについて
わが国が所属するWHO西太平洋地域(WPR)では、1997年3月のカンボジアの症例を最後に現在まで1年以上、麻痺例からの野生株ポリオの分離報告はない。西暦2000年を目標に開始されたWHO の地域レベルのポリオ根絶計画は、いよいよ最後のつめの段階に入った。
根絶を確認する手順として、我々の地域(WPR)では“Regional Commission for the Certification of Poliomyelitis Eradication in the Western Pacific”(ポリオ根絶のための地域認定委員会:日本委員・山崎修道国立感染症研究所所長)が発足し、すでに2回の会合が持たれている。これを受けて、各国において各々の国内認定委員会が設置された(日本国内ポリオ根絶委員会:委員長・宮村達男国立感染症研究所ウイルス第二部部長)。地域認定委員会では目標の2000年まで少なくとも年1回の会合を開き、各国のポリオ根絶状況の報告を受けて、最終的に根絶宣言を行うこととなる。
わが国では1960年にはポリオ患者 5,600人もの報告があったが、ポリオ生ワクチンの導入により患者発生は激減した。1981年以降麻痺患者からの野生株ポリオウイルスは分離されておらず、世界レベルから見てわが国はnon-endemic countryとして位置づけられ、野生株は完全に一掃され、ポリオはコントロールされている…と考えられている。このため、地球規模で行われているポリオ根絶計画のシステム(まずポリオの主症状である急性弛緩性四肢マヒ[Acute flaccid pa-ralysis: AFP]患者を探しだし、その患者の糞便からウイルスを分離し解析して、ポリオ患者の最終診断とする)は、日本では採用されないまま今日に至った。
わが国では1897年以来、ポリオは指定伝染病として直ちに報告することが義務づけられている。また極めて高いワクチン接種率、伝染病流行予測事業および病原微生物検出情報の集積などにより、1981年以降野生株ウイルスによるポリオ患者発生がゼロということは疑うべくもない。しかし根絶計画の最終段階において、AFPサーベイランスに基づいていないわが国の立場は、各国に比していささか特異的である。そこで、ポリオ根絶計画に果たすわが国の役割として、日本の国内委員会は厚生省と緊密な連携のもとに、次の2つの事業を平成10年度から開始することになった。
(1)ポリオ根絶証明のためのポリオ様患者発生動向調査:これは現在の指定伝染病としてのポリオ患者の報告を徹底するとともに、必ずウイルス分離に必要な検体の採取を担当医師にお願いし、ウイルスの検査を各地方衛生研究所および国立感染症研究所で行う、というものである。これは全数調査であり、全国のすべての医療機関に呼びかけることになった。
(2)鑑別疾患発生感度調査(仮称):これはポリオ類似疾患でポリオ以外の診断がついたものの中に、本当にポリオウイルスが含まれていないことを確認するための調査であり、全国数カ所の医療施設を設定し、ウイルス分離を伴った鑑別疾患調査を行おうというものである。
(1)については、別添資料のように厚生省保健医療局結核感染症課より各都道府県・政令市・特別区衛生主幹部(局)長宛、実施要領と共に依頼が出された。(2)については、その詳細について現在国内ポリオ根絶委員会で検討中である。