夏と冬の無菌性髄膜炎の流行−福岡県

無菌性髄膜炎はおもに夏季に流行するエンテロウイルスを主な原因とする疾患である。1997年は、福岡県において1994年以来、3年ぶりの大きな流行となった。

患者発生状況はに示すとおりで、7月と12月をピークとする2つの流行があったと考えられる。7月の流行は、県南部を中心とした地域的な流行であったのに対し、12月の流行は、県全体に及ぶ流行であった。この間に無菌性髄膜炎患者から採取された検体は 431件で、その中で髄液が 409件と最も多く、咽頭ぬぐい液が6件、便が16件であった。

ウイルス分離は、Vero、FL、RD-18Sの3種類の細胞を用いて行った。ウイルスは、合計 195株分離され、その検体別の分離率は、糞便で81%と最も高く、髄液で44%、咽頭ぬぐい液で33%、全体で45%であった。ウイルス分離同定の結果、エコーウイルス(E)30型が 110株と最も多く、E9が54株、E16が6株、E14が1株、コクサッキーウイルスB(CB)3型が7株およびCB5 が17株であった。

検体採取時期から見ると、7月〜9月にかけて採取された検体から分離された主なウイルスは、E9(50株)とCB5 (17株)であり、10月〜2月にかけて採取された検体から分離されたウイルスは、E30(110株)であった。このことから、1回目の流行はE9とCB5 の混合流行で、2回目の流行はE30によるものであったと考えられる。

1997年の流行の主な原因ウイルスであるE9およびE30が分離された患者年齢は、E9では9歳以下の割合が95%、10歳以上の割合は 1.9%であった。E30では9歳以下の割合が76%、10歳以上の割合は22%であった。

E9と同定された株は、市販のエンテロウイルスプール抗血清を用いて同定するとE11と判定されたが、市販のE11単血清では中和されなかった。そこで、国立感染症研究所より分与されたエコーウイルスプール抗血清(EP95)を用いて中和したところE9という結果が得られ、市販のE9単血清(20単位)を用いて中和したところ容易に中和することができた。また、E30と同定された株は、市販のプール抗血清および単血清では中和することができなかった。そこで、EP95および国立感染症研究所より分与されたE30抗血清(20単位)を用いて中和試験を行ったところ容易に中和することができた。E30は1989〜91年に全国的に流行し、福岡県においても1990年〜91年に無菌性髄膜炎患者からE30が分離されたが、その分離株は、市販の抗血清で中和することができた。エンテロウイルスは抗原変異を起こし、標準抗血清に対して難中和性の株の出現が問題になっている。今回のE30もこのような変異株と考えられる。

福岡県保健環境研究所
濱崎光宏 梶原淳睦 石橋哲也
千々和勝己 大津隆一

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

iasr-proc@nih.go.jp

ホームへ戻る