2種類以上のSRSVが検出されたカキの生食による食中毒事例−福岡市
1997年12月に福岡市内において、加熱調理用カキを酢ガキとして提供した飲食店から集団食中毒事件が発生し、SRSVを検出したのでその概要を報告する。
事件の概要:1997年12月19日〜20日にかけて、福岡市内の飲食店で忘年会料理を喫食した11グループ 232名中6グループ85名が、下痢、腹痛、嘔吐、発熱等の食中毒症状を呈した。
患者は6時間以内に4名、12時間以内に18名発症し、78時間以上まで続いた。48時間以内に85名中73名(86%)が発症し、平均潜伏時間は31時間であった。臨床症状は、下痢(水様便)が85名中57名(67%)と最も多く、次いで悪寒、嘔吐、嘔気、腹痛、発熱と多岐にわたった(表1)。
喫食状況調査から、発症した6グループのメニューは同一ではなかったが、酢ガキと茶碗蒸しが共通食品であった。χ2検定の結果、酢ガキが原因食品と推定された(χ2値:茶碗蒸し0.0009、酢ガキ 37.1393)。
当該施設での生カキ(むき身)の冷蔵保管や酢ガキの調理方法には問題点は認められなかったが、提供された生カキは生食用として加工されたものではなく、加熱調理用であったことが判明した。
材料および方法:細菌検査は、患者便53検体、従業員便7検体、提供食品の残物4検体(酢ガキ、茶碗蒸し以外の残物)、施設のふきとり4検体(まな板、冷蔵庫取っ手等)の計68検体について、食中毒菌の検査を実施した。
ウイルス検査は患者生便17検体について、電子顕微鏡検査(EM)およびRT-PCR法(35´/36、NW81/82・SM82プライマー系、MR3/4、Yuri22R/Fプライマー系)による検査を実施した。SRSV遺伝子の増幅がみられた場合は西尾らによるマイクロハイブリダイゼーション法により確認試験を行った。
結果および考察:細菌検査では、いずれの検査材料からも食中毒菌は検出されなかった。ウイルス検査によるSRSV検出状況を表2に示した。EMでは患者便17検体中5検体から直径約30nmのSRSV様粒子が検出された。PCR では17検体中11検体からSRSV遺伝子が検出された。確認試験によりgenogroup1(G1)プローブには3検体、G2プローブには5検体が反応したが、3検体は判定不能であつた。17検体中5検体からはSRSVは検出されなかった。
酢ガキは生食用カキを材料として調理するものであるが、本事例は加熱調理用のカキを営業者が誤って酢ガキとして提供したため発生した特殊な事例であった。カキは18日に購入された同一県産のものであったが、検出されたSRSVは単一ではなかった。シークエンスによる塩基配列においても少なくとも3グループに分けられると思われ、加熱調理用のカキには何種類ものウイルスが混在している可能性が示唆された。EM陽性でPCR 陰性検体や確認試験で判定不能の検体を含めさらなる検討が必要と思われた。
最後に検査法のご指導を賜りました国立公衆衛生院の西尾先生に深謝致します。
福岡市保健環境研究所
宮基良子 本田己喜子 波呂美加 梶原一人
福岡市西保健所
井上朋子 樋脇 弘 山崎 誠 倉成武裕