腸管出血性大腸菌O157 のファージ型別について

国立感染症研究所は1996年より腸管出血性大腸菌(EHEC)の全国的サーベイランスの方法としてパルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)による遺伝子型別を行っている。PFGEは現在最も有効な分子疫学的解析法であるが、 EHEC O157についてはカナダにおいてファージ型別が開発されている。このたび、このファージ型別の系を用いて日本の菌株を検査したので報告する。

1996年および1997年に発生した有症者10名以上の食中毒事例について、VT(Stx)毒素型、PFGE型、ファージ型を表1に示す。1996年の16事例におけるファージ型(PT)の分布は、PT2 が1例、PT4 が1例、PT14が1例、PT21が2例、PT32が6例、PT40が5例であった。1997年では、PT14が1例、PT21が2例であった。これら19事例において、6種類のファージ型が同定されたが、一方、PFGE型は8種類が同定された。

一般的に、PFGEによる解析の方がファージ型別よりも分解能が優れている。しかし、同じPFGE型の菌株がファージ型別を適用することによって、より明確に分類される場合も見られた。例えば、1996年7月に大阪府堺市の事例に端を発した近畿一円の6つの集団事例関連株のPFGE型IIa についてである。これらの菌株はすべてがPT32であった。一方で、1996年の散発事例由来株で同じPFGE型のもの14株についてファージ型別を行った。上記の一連の集団事例と同時期に大阪府、京都府、和歌山県、岐阜県で分離された7株は同様にPT32であったものの、1996年9月に徳島県で分離された3株がPT1に、大阪府および山口県で分離された2株がPT4に、山口県で分離された1株がPT8に、1996年7月に佐賀で分離された1株がPT14に分類された。同じPFGE-IIa型でも、PT32に分類されなかった菌株のPFGE泳動像は、PT32に分類されたものと比較するとわずかな違いが見られたが、ファージ型別を用いることで、より明確にこれらの菌株間の相違が確認された。

1997年は EHEC O157が関与する 908事例分の菌株が当研究所に送付されたが、このうち 566事例の患者由来株(上記集団事例を含む)についてファージ型別を行った。主なファージ型として、PT21が19%、PT14が14%、PT32が12%、PT1が 9.4%、PT39が6.7%を占め、その他17種のファージ型が同定された。また、月別のファージ型の動向を見ると、3月にPT32が一過的に増加していた(図1)。この時期は関東・東海にわたりPFGE-IIa型の菌株によるdiffuse outbreakが見られた時であり、このPT32のピークはこれに相当する。

以上のように EHEC O157のファージ型別は、PFGE解析と比較すると分解能が若干劣るものの、多くの型を同定した。今後も、PFGE解析の結果をサポートする手段として、適用していく予定である。

本研究を行うにあたり、全国各地方衛生研究所から分与していただいた菌株を使用させていただきました。ここに感謝いたします。

国立感染症研究所細菌部
泉谷秀昌 寺嶋 淳 田村和満 渡辺治雄

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