沖縄県における腸管出血性大腸菌O26の発生状況 1996〜1997
沖縄県では、1996年6月〜1997年12月の間に、26事例、82名の腸管出血性大腸菌(EHEC)感染者が発生している。その内訳はO157によるものが12事例、患者数30名、O26によるものが11事例、患者数49名、その他O111が2事例2名、O153が1事例1名であった。感染者の6割がO26を原因菌とする事例で占められており、他の地域と比べ非常に高率である。表1に本県における EHEC O26の発生状況の一覧を示す。5事例が散発的発生で、そのうち1事例に家庭内感染が認められた。また、6事例の集団発生はいずれも保育園であった。どの事例においても発生原因が共通の食品を介して感染したのか、あるいは園内での二次感染であるのかは不明であったが、園児感染者の91%が2歳以下で、糞便の自己管理が不十分な年齢層で占められていた。また、1事例については園内のトイレ付近の手すりからO26が検出され、園児家族にも感染者が出るなど二次感染が起こりやすい状況であることがうかがえた。このようなことから、O26:H11についてもO157:H7と同様の感染力を有すると思われる。全体として症状は下痢を主症状とする比較的軽症者がほとんどで、血便を伴っていたのは50名中4名、HUSを併発したものはいなかった。また、健康保菌者の占める割合も高く、O157の場合は39%であったのに対し、O26は49%と約半数が無症状者であった。
H抗原は、11事例のすべてがH11型であり、VT産生性については11事例中10事例がVT1単独産生株で、VT1およびVT2産生株が1事例、VT2単独産生株は認められなかった。また、薬剤耐性については4剤以上の多剤耐性株が11事例(50株)中1事例(4株)に認められた(EM、ABPC、TC、ST耐性)。
遺伝子解析については、事例11を除く47株について制限酵素XbaIを用いてのパルスフィールド電気泳動法(PFGE)によるDNAパターンの比較を行った。各集団事例は同一のパターンを示していた。各事例の代表株およびM離島で発生した事例3、4、5、6の8名から分離された8株のPFGEパターンをそれぞれ図1、2に示した。図1のレーン3、4、5および図2のレーン1〜7に示したM離島発生の事例3、4、5は同一のパターンを示し、diffuse outbreakの様相を呈した。また、図1のレーン6(図2のレーン8)の事例6についても時期の異なる同地域での散発事例であるが、バンドが2本異なるのみでほぼ同一のパターンであった。図1のレーン1、2およびレーン7〜10に示す本島、およびその周辺離島で発生した事例についてはすべて異なるパターンを示していた。このことから、本島および本島北部離島地域でのO26:H11については、O157:H7と同様、多様な感染源の存在を示しているといえる。
O26の検査法についてはO157のような特異的に鑑別できる培地が無いため、保菌者検索等の際数多くのコロニーについて検査を実施しなければならない。そのため本県では、保育園等の二次感染の危険性の高い施設での発生時には、レインボーアガー、BTB寒天培地等を用いて検査を進めると同時に、検体をTSBブイヨンに接種してPCRを用いたVero毒素のスクリーニング試験を併行して実施してきた。この方法では陽性の検体に的を絞り集中的に検査が実施できるため、検出率の向上、また、省力化の上でも有用であった。いずれにしてもO26を標的とした、効率的な検査法の確立、増菌培地、免疫磁気ビーズ、分離培地等の開発が望まれている。
沖縄県衛生環境研究所
久高 潤 大野 惇 糸数清正
大城直雅 安里龍二 徳村勝昌