神奈川県内の4小学校で発生したSalmonella Enteritidis による集団食中毒事例

Salmonellaによる食中毒は1989年以降急増し、中でもSalmonella Enteritidis(SE)によるものが全国と同様、神奈川県においても増加している。さらに、わが国におけるSEのファージ型(PT)別状況を年次別にみると、1989〜1991年まではPT4、PT34、1992年以降はPT1、PT4が多くなっている。今回、大阪府下の製造所で製造された三色ケーキを原因食品とする集団食中毒事件が岩手県、東京都、福井県、神奈川県で発生した。このうち、神奈川県下の4小学校の事例概要は以下のとおりである。

1998(平成10)年3月16〜17日、給食に出されたケーキ等を喫食し、発熱、下痢、嘔吐等食中毒症状を呈した。発生4小学校におけるケーキの喫食状況と患者数をみると、喫食者数は 2,786名、患者数は 642名(児童 620名、教員22名)、入院者数は34名(児童33名、教員1名)であった。検査の結果、患者便203検体中131検体からSEが分離され、従事者便12検体、ケーキ30検体、その他255検体からは分離されなかった。

 A小学校:3月17日、ケーキ等を喫食し、18〜19日にかけて発症した。喫食者数は555名、患者数は103名(入院18名)であった。検査の結果、患者便46検体中38検体からSEが分離され、その他72検体からは分離されなかった。

 B小学校:3月16日、ケーキ等を喫食し、17〜19日にかけて発症した。喫食者数は955名、患者数は163名(入院6名)であった。検査の結果、患者便89検体中52検体からSEが分離され、その他107検体からは分離されなかった。

 C小学校:3月16日、ケーキ等を喫食し、17〜19日にかけて発症した。喫食者数は1,100名、患者数は366名(入院8名)であった。検査の結果、患者便61検体中37検体からSEが分離され、その他61検体からは分離されなかった。

 D小学校:3月16日、ケーキ等を喫食し、17〜18日にかけて発症した。喫食者数は 176名、患者数は10名(入院2名)であった。検査の結果、患者便7検体中4検体からSEが分離され、その他2検体からは分離されなかった。

児童等から分離されたSE株について薬剤感受性測定およびパルスフィールド電気泳動法(PFGE)による染色体DNA の制限酵素切断パターンを検討した。制限酵素は、XbaIおよびBlnIを使用した。ファージ型別を国立感染症研究所に依頼した結果、今回分離された株はすべてPT4であった。

薬剤感受性はNCCLSの平板希釈法に準じて6薬剤(ABPC、CP、SM、KM、CPFX、NFLX)のMIC(最小発育阻止濃度)を測定した。その結果、すべての菌株が6薬剤に対して感受性を示した。SE株のPFGEパターンをに示した。4小学校の児童などから分離されたSE株のPFGEは一致した(レーン1、2、3および5)。また、1990年に神奈川県で分離されたSE(PT4、レーン4)のPFGEパターンとも一致した。日本で過去に分離されたSE株はPT4のPFGEパターンのバリエーションが少ない(感染研・渡辺、私信)。従って、今回供試した食中毒事例由来株のPFGEパターンが一致したことのみで、それらの因果関係を判断できるものではない。しかし、患者の喫食状況および岩手県の検査結果(ケーキからSEを検出)を勘案すると、本事例の原因食品がケーキであることが強く示唆され、PFGEの成績を裏付けるものと思われる。

神奈川県衛生研究所
松島章喜 村瀬敏之 浅井良夫

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