硫化水素非産生性Salmonella Enteritidisによる集団食中毒事例−山口県

1998年5月20〜22日にかけて福岡、佐賀、長崎方面を旅行した山口県の中学3年生・教諭、計 279人のうち134人が帰宅後腹痛、下痢、発熱、頭痛の症状を呈した。食中毒を疑い、患者便53検体について細菌検査を実施した。

サルモネラの検査には分離培地としてSSおよびDHL寒天培地を使用した。これらの分離培地上にサルモネラが疑われる硫化水素産生の集落が認められたものは、直接塗抹培養では2検体、増菌培養では6検体であった。これまでの経験からサルモネラの食中毒とするには検出率が低いことから、他の原因菌も疑って検査を行っていたところ、管轄の保健所から、検査を保健所より早く行った病院では当初原因菌不明であったが、硫化水素非産生菌を同定キットで検査したところ、サルモネラであることが判明したとの情報を得た。この情報をもとに再度SSおよびDHL寒天培地に発育した透明な集落を検査した結果、直接塗抹培養で7検体、増菌培養で25検体からSalmonella Enteritidis(SE)を検出した。なお、同一の平板上で硫化水素産生性集落と非産生性集落が混在するものが少数みられた。これらを集計すると患者便53検体中28検体からSEが検出され、そのうち21検体は全く硫化水素産生性の集落はみられなかった。なお、分離平板培地上で硫化水素を産生した菌株でもTSI寒天培地では硫化水素の産生はみられなかった。これらの分離菌株の性状は硫化水素産生性を除けば、一般のサルモネラと同じであった。

今回の事例は、情報の重要性と惰性に流されることなく常に疑問を持って検査することの大切さを再認識した事件であった。

山口県衛生公害研究センター 片山 淳 冨田正章
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