マレーシアおよび日本で分離されたエンテロウイルス71型の分子疫学的解析

エンテロウイルス71型(EV71)は、コクサッキーウイルスA16型、コクサッキーA10型等とともに手足口病の主要な原因ウイルスのひとつとして知られており、日本各地で毎年分離される常在ウイルスである。EV71はしかし、稀にではあるが重篤な神経症状を引き起こすことが知られており、死亡例を伴うEV71の流行が報告されている。特に1975年のブルガリアおよび1978年のハンガリーではそれぞれ40名以上の死亡例を伴うEV71の流行が確認されており、オーストラリア、アメリカ等でも重篤な中枢神経疾患へのEV71の関与が示唆されている。

1997年、マレーシア・サラワク州で、エンテロウイルス感染が疑われる死亡例を含む小児の急性疾患の流行が報告された(前項参照)。感染研では、マレーシア国立医学研究所と協力して、サラワク州およびマレー半島における死亡例および手足口病患者よりウイルス分離を試み、これまでのところ15株のEV71を分離した。分子疫学的解析によると、分離したマレーシアのEV71は、死亡例、手足口病患者からの分離株を含めてほとんどの株が同一のgenotype(サラワク型)に属していた。マレーシア・サラワク型のEV71は、これまでに塩基配列が報告されているプロトタイプ株BrCrおよびアメリカで1987年に分離された7423/MS株と、RNA で80〜86%、アミノ酸で95%程度の相同性を示し、いずれとも異なるgenotypeに属していた。

日本で現在流行している手足口病の原因ウイルスとしてのEV71とマレーシアで分離されたEV71との間に病原性の強さを含めたウイルス学的性状の違いがあるかを解析する手始めとして、両者の分子疫学的比較解析を行った。また、最近日本でも少数例ではあるがEV71感染の関与が疑われる脳炎を含めた重篤な症例の存在が明らかにされており、ウイルスが分離された大阪の死亡例由来のEV71についても併せて解析を行った。手足口病由来の約40株のEV71および大阪の1株を解析したところ、日本のEV71は大きく2種類のgenotypeに分けられることが示された。そのうち、約10株のEV71はマレーシアで分離されたEV71の多くと共通のgenotypeに属しており、大阪の死亡例由来の1株もこのgenotypeに属することが示された。他の日本のEV71は、EV71/サラワク型と明らかに異なるgenotypeを形成していた。

以前より、EV71が多様な病原性を示すこと、また地域、時期により異なる症状を呈する流行を起こすことからEV71の株間で病原性に違いがある可能性が指摘されてきた。今後、マレーシア、日本および他の地域で分離されたEV71の病原性についての研究を進めるとともに、日本で流行しているEV71について、genotypeの違いを含めて注意深く監視していく必要がある。

国立感染症研究所ウイルス第二部
清水博之 Andi Utama 吉田 弘 萩原昭夫 宮村達男

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