急性脳症患者髄液からのインフルエンザウイルスゲノムの検出−茨城県

1997/98シーズンの茨城県におけるインフルエンザの流行は、1998年1月中旬頃より急激に増加し、1月下旬〜2月上旬にかけてピークを迎え、2月下旬には減少傾向を示す鋭い一峰性となった。感染症サーベイランス情報によると、1月下旬には一定点あたり 60.00人、2月上旬には 80.98人とサーベイランス事業を始めて以来最高の報告数となった。

当県における主な分離ウイルスは、圧倒的にA(H3N2)型であるが、A(H1N1)型も3株分離された。

1月下旬ごろから、県内の医療機関よりインフルエンザウイルスによると思われる脳炎・脳症患者(小児)の髄液の検査依頼が徐々に増え、ウイルス分離とRT-PCR法によるウイルスゲノムの検出を行った。プライマーは、A(H3N2)、A(H1N1)およびB型インフルエンザウイルスのHAゲノム領域で変異の少ない部位に設定されたものを用いた。

急性脳炎・脳症、痙攣重積を含めて24件の髄液の検査を実施した結果、ウイルス分離はできなかったが、急性脳炎・脳症の患者2名からA(H3N2)ゲノムが検出された。インフルエンザウイルスによって脳炎・脳症が引き起こされた可能性を強く示唆するものと思われる。

1st PCRでは、DNAバンドは検出されなかったが、2nd PCRでA(H3N2)に特異的なバンドが検出された。シークエンスは、他の咽頭ぬぐい液から検出されたA(H3N2)ゲノムと同じシークエンスを示し、脳症を起こしたウイルスに特殊なシークエンスはみられなかった。今回、脳炎・脳症患者から咽頭ぬぐい液が採取されなかったので、次回からは咽頭ぬぐい液・血液等の採取を依頼した。

また、脳炎・脳症を起こした7名の年齢の内訳をみると、5名が2歳未満、あとの2名も2歳と3歳である。その7名のうち2名の患者(小児)に後遺症を残している。インフルエンザワクチンの接種歴のない幼小児に重症化するケースが多くみられた。

さらに、痙攣重積の患者(小児)17名の咽頭ぬぐい液の検査を実施した結果、6名の患者からインフルエンザウイルスA(H3N2)型を分離し、9名からA(H3N2)ゲノムを検出した。

患者1:1歳6カ月の男児。主訴は発熱、痙攣、家族歴は特になし。1月29日、発熱、近医を受診し投薬を受けた。1月30日深夜高熱となり解熱剤挿肛するが、4時50分ごろ全身強直間代性痙攣(チアノーゼ、眼球上転)にて、救急外来受診。酸素投与、ダイアップ挿肛するが頓挫せず、セルシン静注にて頓挫するが意識回復なく緊急入院となる。

入院時現症:体温38.5℃、痙攣頓挫後意識レベルJCS III-200、項部強直(−)、頭部CT 浮腫(±) 出血(−)、髄液 初圧8cmH2O 細胞数 6/3(Mo4.Poly2) TP 21.2 Glu 129

輸液管理、抗生剤静注を開始するが、入院後も痙攣を繰り返す。30日午後には意識回復を認めるが、31日には再び意識レベル低下(III-100)、2月1日にはさらに意識レベルが低下(III-200)し、午後には四肢の強直痙攣出現。いったんは頓挫するが、2月3日再び痙攣出現、頻回となる。初期より降圧剤等使用したが、意識レベルの改善みられず、徐々に脳圧亢進、経過より急性脳症と診断、後遺症あり。

患者2:1歳1カ月の女児。主訴は発熱、痙攣、家族歴は特になし。3月16日16時ごろ発熱、嘔吐出現。18時ごろ全身強直間代性痙攣出現、救急外来受診。ダイアップ挿肛、セルシン静注、アレビアチン静注するが頓挫せず、緊急入院となる。

入院時現症:体温38.7℃、痙攣頓挫後意識レベルJCS III-300、項部強直(+)、頭部CT 浮腫(−) 出血(−)、髄液 初圧24cmH2O 細胞数 0/3 TP 13 Glu 108

輸液管理、酸素投与、抗生剤静注を開始、一度痙攣はおさまったが、入院後再び痙攣出現、ラボナール静注にて頓挫する。16日23時ごろ覚醒、3月17日5時ごろには活動性、追視もみられた。3月18日に意識回復、起立可となり髄液圧低下を認める。痙攣前後で精神運動発達に著変なく全身状態良にて3月23日退院。

最後に、ご指導を賜りました国立公衆衛生院の中島節子先生に深謝致します。

茨城県衛生研究所
永田紀子 根本治育 原  孝
増子京子 藤咲 登
県立中央病院 浜野雄二

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