東京多摩地区における散発下痢症からの腸管系病原体検索成績 1997年

東京都立衛生研究所多摩支所では、感染症サーベイランス事業の一環として、東京多摩地区の散発下痢症の実態を把握する目的で、多摩地区の9医療機関において乳幼児嘔吐下痢症あるいは感染性胃腸炎と診断された患者糞便を対象に腸管系病原体検索を行っている。ここでは、1997年1年間に得られた検査成績の概略を報告する()。

乳幼児嘔吐下痢症例では、51例中26例(51%)、感染性胃腸炎例では、 260例中98例(38%)が陽性例であった。2症例の陽性率と乳幼児嘔吐下痢症でウイルスが主体を占める傾向は、例年と大差なかったが、本年は感染性胃腸炎で、ウイルスの陽性率が病原菌陽性率を上回った。

検出病原体は、乳幼児嘔吐下痢症では6種類で、そのうち最も多いのは、ロタウイルス、SRSV、アデノウイルスであった。一方、感染性胃腸炎では10種類と多様な病原体が検出された。主要な病原体は、ロタウイルス、アデノウイルス、サルモネラ、SRSV、病原大腸菌、カンピロバクターであったが、本年特徴的なことは、アデノウイルスが昨年と比べて2倍に増えたことと、逆にSRSVの大幅な減少であった。

年齢別にみてみると病原大腸菌、サルモネラ、カンピロバクターは、どの年代にも差はなかったが、ロタウイルス、SRSVと本年検出率の高かったアデノウイルスは5歳以下に多かった。また、これまで高年齢に比較的よく検出されていたロタウイルスやSRSVは、1例もなかった。

月別には、4月(72%)、8月(44%)、12月(50%)に陽性率の高いピークを認めた。これらのピークは、4月にロタウイルス、8月にサルモネラ、腸炎ビブリオ等の食中毒菌、12月にSRSVとアデノウイルスが高頻度に検出されたためと考えられた。

本年著しい検出数の増加をみたアデノウイルスは、病原大腸菌やカンピロバクターと同様に1年を通じて良く検出されたが、そのピークは、8月の夏期と12月の冬期の二峰性を示した。また、一部検討中であるが、それらの多くは、腸管アデノウイルス(40/41型)であることがELISA 法において確認されている。

検出された病原大腸菌は、1株の腸管出血性大腸菌を除き、すべて腸管病原性大腸菌(血清型)に属するものであった。腸管出血性大腸菌(O157:H7;VT1&2)陽性例は、6月、5〜6回/日の血液の混じった水様下痢を示した10歳の男子から検出されたものであった。また、検出されたサルモネラ10株中5株は、S.Enteritidisであり、該血清型は依然多摩地区においてもサルモネラによる散発下痢症の主要な血清型であることが確認された。

東京都立衛生研究所多摩支所
加藤 玲 尾形和恵 林 志直 吉田 勲 山田澄夫

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