クラミジア・トラコマチスの血清型年次推移(1992〜1997)について−長野県

Chlamydia trachomatis(Ct)感染症は、STDの主要な病原体であり、子宮頸管炎、卵管周囲炎、骨盤内感染症、肝周囲炎等の原因となることが報告されている。

Ctは主要外膜蛋白(major outer membrane protein以下MOMP)の抗原性により15の血清型(A、B、Ba、C、D、E、F、G、H、I、J、K、L1、L2、L3)に型別され、さらにDa、Ia、L2aなどの亜型の報告もある。また、Ctの血清型には地域特異性があることも報告されており、わが国において分離されるCtの主な血清型はD、E、FおよびGの4血清型で分離株全体の60〜75%を占めている。1980〜1990年代のほぼ10年間で20歳代のSTD患者から分離したCtの血清型は、DからF型に推移したとの報告もある。

長野県においてもCt感染症の実態を把握する目的で、Ctの分離と血清型別を実施している。今回1992年〜1997年の6年間のCtの血清型の推移について検討したところ若干の知見を得たので報告する。

1992年〜1997年の間に、結核・感染症発生動向調査検査定点である長野赤十字病院産婦人科を妊婦検診および泌尿生殖器症状で受診した者から子宮頸管擦過物を採取し、厚生省レファレンスシステム研究班の作成した「クラミジア検査法」のマニュアルに準じた分離培養法で分離を試み、Ct60株を得た。分離培養法は以下のように行った。すなわち、HeLa229細胞を単層培養し、DEAE-dextranを含むHanks液で35℃、30分間細胞表面を処理後、検体を含むSPG液0.2mlを接種した。1,500rpm、60分間遠心吸着後、SPG液を吸引除去してcycloheximideを含むクラミジア培養液を加えて、35℃で3日間培養した。メタノール固定後、モノクローナル蛍光抗体法(Syba社 MicroTrak)を使用し、蛍光顕微鏡下で封入体形成の有無を観察した。

分離株は、血清型別に必要な量のCt粒子数を得るため、遠心吸着法による培養を繰り返した。

分離株の血清型別は、モノクローナル抗体を用いた間接蛍光抗体法(micro-IF法)で行った。

に血清型別の年次推移を示した。血清型別を行った株は合計60株で1992年13株、1993年21株、1994年7株、1995年2株、1996年9株、1997年8株であった。最も多かったのはF型13株、次いでE型12株およびD型12株であった。尿路性器感染者から多く分離される血清型はD、E、FおよびG型であり、その合計は70%(42/60)であった。A、Ba、C、J、L1、L2、L3および亜型は分離されなかった。

Ct血清型の年次変化は、株数が異なるので単純に比較できないが、1992〜1994年は先進諸国に多いD、E、FおよびG型が81%(33/41)であるのに対し、1995〜1997年は47%(9/19)であった。特に1996年は先進諸国に多い型以外のB、H、IおよびK型が67%(6/9)と多く、それ以外の年とは異なる傾向を示した。また、1992〜1997年の6年間では、多く分離される血清型がE型からF型さらにはD型に推移する傾向にあった。これらの原因は明らかではないが、今後も注意深く血清型の推移を見守っていく必要がある。

また、Ct血清型年齢群分布は、30歳以下ではD、EおよびF型の検出頻度が72%(33/46)と高く、さらに分離される血清型の種類も多かった。それに対し、40歳以上ではF、G型の検出頻度が50%(7/14)と高くなる傾向が認められ、年齢にともない血清型がD、E型からF、G型に集約される傾向が示唆された。

今後も調査を継続し、血清型の年次変化の把握や、それぞれの血清型と臨床像の関係を検討したいと考えている。

長野県衛生公害研究所
竹内道子 白石寛子 宮坂たつ子 中村和幸
長野県北信保健所  小野諭子
国立感染症研究所  萩原敏且 志賀定祠

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