エイズの疫学状況、予防方法の開発−第12回国際エイズ会議(ジュネーブ)より
ほとんどの先進国と一部の途上国では、予防対策の強化によりHIV新規感染者数の頭打ちや減少がみられる一方、多くの途上国では感染増加に拍車がかかっている。UNAIDSの報告によれば、アフリカのサハラ以南に位置するボツワナ、中央アフリカ、コートジボワール、ケニア、マラウイ、モザンビーク、ナミビア、ルワンダ、南アフリカ、スワジランド、ザンビア、ジンバブエでは、子どもを除く全人口の少なくとも10%以上が感染しており、これらの首都の多くは大人の感染率が35%を上回るとされている。なかでもボツワナとジンバブエでは、大人の25%以上が感染しており、これまでの統計を上回る状況が明らかになった。感染者の約9割は途上国に存在し、世界全体では平均約5秒に1人の割合で新たな感染が拡大している。
また、治療水準の南北格差により、先進国ではエイズ発症や死亡数が減少しているが、途上国ではさらに多くの感染者が発症し死亡し続けている。東アフリカ諸国で人口の10%以上が感染している地域では大人の死亡率が倍増し、感染率が若干低い地域でも25歳〜34歳の死亡者の5人に4人はエイズが原因で死亡している。
1997年、母子感染によりHIVに感染した乳児は世界で約60万人にのぼった。途上国ではHIV感染妊婦から生まれる子供の25%〜35%が感染を受けるのに対し、妊婦へのAZT投与による母子感染防止と、母乳に変わる人工栄養が可能な先進国では、5%以下の感染率となっている。また、先進国のいくつかのコホートスタディから、妊婦のAZT治療に加え帝王切開を行うことにより、さらに感染を1%以下にできることが報告された。
AZT投与により母子感染のリスクを約3分の1に減少できることは1994年に明らかにされていたが、本会議では途上国でも実施可能なAZT短期投与の有効性についての臨床試験結果が多く報告された。タイでは、妊娠36週から分娩時までに短縮した期間のAZT投与を行い、母乳も止めさせたところ母子感染のリスクを約半分に減少できた。このため途上国での予防策普及が望まれる一方、AZTの供給確保、自発的なHIV検査とカウンセリング体制整備、妊娠中および出産時のケア、授乳指導などについての課題も多い。母乳に関しては、授乳期間が長いほど感染リスクが高まるというデータが報告されたが、AZTの母乳中での薬物動態などまだ不明な点が多い。
感染増加を阻止するため、ワクチン開発に対してこれまで以上に大きな期待が寄せられた。会議直前に、世界で初めてワクチンの第3相臨床試験が行われることが発表された。これはgp120を用いたワクチンで、米国の5カ所の都市で5,000人を対象に臨床試験が行われる。また、本年後半にタイ政府の許可が得られれば、タイにて2,500人を対象に同ワクチンの臨床試験が実施される予定であることも報告された。
感染症研究所国際協力室 梅田珠実