秋田県におけるジフテリア検査体制−集団事例発生(1992年)のその後

1992年8月に秋田市内の知的障害児施設でジフテリア患者が発生し、当所がその検査を担当した。事例の概要は本月報Vol.14、No.7(1993)に「6年ぶりに発生したジフテリアと反省点」として報告した。本事例は当所にとっても貴重な経験であり、検査に携わった経験をとおして、ジフテリアのように発生頻度が低い伝染病の検査に際しては検査用品、検査技術の確保・維持が大きな問題点であることが認識された。具体的には(1)標準株を所有していなかったこと。(2)分離培地である荒川培地、確認培地であるDSS培地などが製造中止となっており、自作せざるを得なかったこと。(3)ジフテリア菌の検査経験を持つ技術者がいなかったことが問題点であった。また、ジフテリア菌同定の重要なステップである毒素試験にウサギやVero細胞を使用すると、成績が得られるまでに時間がかかることも防疫活動を実施する上で問題となることがわかった。以上の問題点・反省点に立脚して、その後当所においてどのような対策を講じたかについて紹介する。

(1)の標準株については日本細菌学会を通じてmitisとgravis型のジフテリア菌を入手、保存した。(2)分離培地は現在Oxoidのチンスダール培地が入手可能であり、基礎培地とサプリメントを入手、所持している。鑑別培地として非常に有用なDSS培地は依然製造中止となっており、入手できないことから必要な場合には1992年の事例と同様に自作をする予定である。DSSにはpH指示薬としてウォーターブルーが使用されているが、1992年の事例ではウォーターブルーがなかったためにフェノールレッドを代用して幸い好結果を得ることができた。その後ウォーターブルーを発注、入手した。レフレル培地、糖分解試験用培地などは1992年同様に微生物検査必携に従い自作をする予定である。なお、レフレル培地は市販生培地が入手可能のようである。また、DSS培地は限定数量が生産される予定との情報もある。(3)1992年の事例でジフテリア検査に携わった当所のスタッフは得難い経験を積んだこととなったが、当時のスタッフは極めて幸いなことにまだ当所に在籍している。個人の経験と能力をそのまま他者に転写することは不可能であり、貴重な経験と技術を保有するスタッフは所にとってかけがえのない戦力であるはずである。現在のところはこの貴重な経験と検査技術が当所に保存されていると言えるが、以前とは異なり異動が頻繁となっている。今後、当所で1992年の事例の経過、検査状況などをまとめて保存してあるマニュアルが検査技術の継承に役立つはずである。一方、ジフテリア毒素の検出にはPCRを導入した(J. Clin.Pathol. 1991;44:1025-1026)。DSS培地でジフテリア菌が疑われる所見を示した菌株について、PCRでジフテリア毒素遺伝子の有無を調べることにより迅速な同定が可能となり、防疫活動を効率的にサポートすることにつながると考えられる。

秋田県においては1992年以降ジフテリア患者は発生していないが、県内、県外から若干のジフテリア菌同定依頼があり、その際、PCRによる検査が非常に有用であった。

秋田県衛生科学研究所
齊藤志保子 八柳 潤 佐藤宏康 宮島嘉道

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