イクラ醤油漬の腸管出血性大腸菌O157汚染に関する調査−北海道

1998年5月上旬〜6月中旬にかけて、北海道産イクラ醤油漬を原因とする腸管出血性大腸菌0157(以下、O157)による食中毒が発生した。本食中毒は、O157に汚染された魚卵加工品の摂取によって発生した、世界でも例をみない事例である。

感染者は富山県、東京都を中心に7都府県で62名(一次感染者49名、二次感染者等13名)にのぼり、うち12歳以下の患者は37名で全体の76%を占めた。イクラは軍艦巻あるいは手巻寿司として提供され、患者が摂食した寿司は1人あたり1/3個〜8個で、平均2〜4個であった。イクラは凍結状態で流通されており、寿司店等では提供する前日あるいは当日に解凍された。解凍後は冷蔵庫等(10℃以下)で保存され、寿司1個につき10〜15gのイクラを盛りつけて提供された。

全国各地で実施されたイクラ醤油漬の0157検査では被検試料484検体中48検体(9.9%)が陽性であり、うち北海道内で実施された回収品等399検体の検査では17検体(4.3%)が陽性であった。当所では測定量を100gとし、TSBおよびmEC-Novの2種類の増菌培地を用い、以後の操作については厚生省の指針にしたがった。定性試験でO157が検出された17検体のうち10検体について汚染菌量を測定したところ(測定量333g、3管法による最確数MPN)、0.9MPN/100g(9検体)および0.2MPN/100g(1検体)の結果を得た。神奈川県の検査(本月報Vol.19、No.9、1998)によると、当該イクラには10gあたり1〜5個前後のO157汚染があったと報告されている。この汚染菌量は北海道で実施された検査結果の約10倍量であり、試料の違いによって汚染菌量に差異があることが分った。今回の事例はJohnら(US J. Public Health, 86, 1142, 1996)のサラミソーセージに関する報告と同様、極めて少ない菌量で発症したと考えられる。

イクラ由来の0157:H7はいずれもStx1およびStx2(VT1&2)産生菌で、RAPD Stx2遺伝子の塩基配列の比較、Southern hybridization等の手法を用い、感染症研究所から分与を受けた患者由来株との間の遺伝学的な解析を行ったが、株間に相違は認められなかつた。

食中毒の原因となったイクラの加工施設における使用水、施設付近の河川水、施設内のふきとり、産業廃棄物、あるいは今秋採捕されたサケおよびその漁獲海域の海水、ならびにハエ等の媒介動物からは本菌は検出されなかった。食中毒の原因となった製品(1997年9月15日製造)と同一のロット品の理化学的性状は、pH 5.6、水分活性0.95、塩分濃度1.6〜1.8%で、微生物試験においては一般生菌数105〜109cfu/g、大腸菌群300以下〜106cfu/g、大腸菌300cfu/g以下の結果であった。優勢菌として乳酸菌が検出されたため製品は腐敗状態にあったこと、また、原料であるサケ生卵巣がほぼ無菌状態であるのに比し、製品から大腸菌群が多数検出されたため非衛生的な状態で製造を行っていたことが指摘された。製品にO157を添加しその消長を観察したところ、20℃、3日の条件では菌数に顕著な変動は認められなかった。

イクラは北海道を代表する水産加工品のひとつとして全国の消費者に親しまれてきたことから、水産加工関係者と行政機関が一致協力して消費者の信頼回復に努めなければならない。そのためには、早期にHACCPシステムを導入して衛生管理をこれまで以上に徹底することが必要である。

北海道立衛生研究所食品科学部

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