1997年7月に秋田県内で分離された腸管出血性大腸菌(EHEC)O121:H19の性状
最近、わが国でnon-O157 EHECの分離報告が増加しているが、non-O157感染者はEHEC O157感染者と比較して軽症に推移するとされている。実際、秋田県においても1996(平成8)年にO150:H25、O103:H2など、non-O157 EHECが多数分離されたが、non-O157感染者に血便やHUSの発症は認められなかった。一方、1997(平成9)年7月、秋田県A市とY市で血便と強い腹痛を呈する患者が発生し、両者の糞便についてEHECを検索した結果、これまで国内での分離報告がほとんどないEHEC O121:H19が分離された。患者の発生状況、および分離株のvirulence property、パルスフィールド電気泳動(PFGE)パターンなどの疫学マーカーについて検討した。
Y市の患者は15歳の女性で7月15日に発症、18日に血便が出現、腹痛が増強して近医を受診した後総合病院に入院した。一方、A市の患者は20歳の男性で7月19日に発症、21日に血便が出現、22日に腹痛が増強して総合病院を受診、入院した。当所に送付された両者の糞便から、いずれもVT2遺伝子を保有し、DHL平板上で無色コロニーを形成するEHECが分離された。2株の分離株は市販のO群別用血清キットにより加熱菌のみがO114に群別されたが、その血清型は、後にThe International Escherichia and Klebsiella CentreにおいてO121:H19と決定された。
EHEC O121:H19 2株のvirulence propertyについて検討した結果、2株はいずれもVT2遺伝子に加えて、EHECのvirulenceに関連すると考えられているeaeA遺伝子、およびCVD419プローブとハイブリダイズする約60MDaのプラスミドを保有し、エンテロヘモリジン産生能を有していた。また、in vitroにおける2株のVT2産生能は秋田県内で過去に分離されたEHEC O157と同程度であった。
一方、患者2名の発症時期が近接していたことから、分離されたEHEC O121:H19 2株の疫学マーカーを比較した。2株のプラスミドプロファイル、生化学的性状、10薬剤に対する感受性パターンは、検討した範囲で完全に一致したが、XbaI、およびNotI PFGEパターンにわずかな違いが認められた(図1)。
以上の結果から、1997年7月の同時期に、非常に近縁な2株のEHEC O121:H19が秋田県内に侵淫していたものと考えられた。一方、EHEC O121:H19は、検討した範囲でEHEC O157と同様なvilurence propertyを保有し、感染者にも比較的重篤な症状を惹起したことから、注目すべき non-O157 EHECであると考えられる。なお、EHEC O121:H19は、昨年米国・ボルティモアで開催されたVTEC '97で、ヨーロッパ大陸部において HUS 患者から分離されたEHECの一つとして報告されており、国外においては以前から知られている菌型のようである。今後も本菌の侵淫状況を監視する必要があると考えられるが、O121群用の抗血清は市販されていないために、抗血清による従来のスクリーニングでは検出困難である。スクリーニング用抗血清の市販も含めて、このようなEHECを確実に検出する方法を確立する必要があるものと考えられる。
秋田県衛生科学研究所
八柳 潤 木内 雄 齊藤志保子
佐藤宏康 宮島嘉道