中国へ修学旅行した高校生のEHEC O26:H11とSalmonella Albany等集団混合感染事例−秋田県

1998(平成10)年4月に、修学旅行で中国を訪れた秋田市内の高校生が腸管出血性大腸菌(EHEC)O26:H11とSalmonella Albany(O8,20:z4,z24:-)などに集団感染した事例の概要を報告する。

4月20日にVero毒素(VT)検査目的で当所に送付されたE. coli O26がVT1+、eaeA+のEHECであることが判明した。届出を受けた秋田市保健所の調査により、患者は秋田市内の高校の生徒であり、4月9日〜4月15日まで修学旅行で中国を訪れていたこと、修学旅行生の中にさらに有症者が存在することが判明した。4月22日に秋田市保健所から有症者の検便16検体が搬入され、その1検体から翌23日にEHEC O26が分離・同定された。秋田市保健所は本事例をEHEC O26の集団感染事例と判断し、修学旅行生540名(検査済みの16名を含む)、引率者41名の計581名について検査を実施した。

検査は秋田県総合保健事業団の業態者EHEC検査部門(以下事業団)と当所が分担して実施し、当所は303検体を担当した。検査には検体のECブロス培養液から調製したテンプレートを対象としてPCRによりVT遺伝子保有株の存在を調べるスクリーニングと、MacConkey Agar Base(Difco)にラムノース(関東化学)を1%の濃度に添加し、滅菌後にCTサプリメント(Oxoid)を加えて調製した「CT-RMAC」による直接分離培養を併用した。なお、本培地は愛知衛研により開発された。事業団ではPCRによるスクリーニングを実施し、陽性検体からのEHECの分離・同定は当所で実施した。検体別陽性数は表1のとおりである。当所で担当した 303検体のうち10検体から、事業団でスクリーニング陽性となった11検体のうち8検体からEHEC O26が分離され、既に確認されていた2名と合わせてEHEC O26感染者は20名となった。また、スクリーニングが陽性であるにもかかわらず、EHEC O26が分離されなかった検体のうち2検体からEHEC O91:H14とO146:H19(いずれも VT1&2+、eaeA−)が分離された。

一方、病院を受診した有症者からサルモネラO8群が分離され、分離株が当所に送付された。当該株の血清型はO8:z4,z24:-であり、O6血清には凝集が認められなかったことから、当該株をS.Albanyと同定した。さらに、当該株をInstitut PasteurのM. Popoff博士に送付し型別を依頼したところ、S.Albanyであることが確認された。これらのことから本事例がEHECとサルモネラの混合感染事例である可能性が考えられたために、303検体についてサルモネラを検索した結果、S.Albanyが13名、 S.Agonaが1名、 S.Enteritidisが2名から分離された。本事例で分離されたEHECおよびサルモネラは表2のとおりである。

EHEC O26は「CT-RMAC」上で中心部がやや褐色の透明コロニーを形成するために検出、釣菌が極めて容易である。「CT-RMAC」を使用しなければ、今回、300余の検体を短期間に検査することは不可能であった。一方、我々は当初、本事例がEHEC O26のみを原因とする集団感染事例と考えていたことから、EHEC O91:H14、O146:H19さらにサルモネラを検出するまでに若干の時間を要した。輸入感染事例のみならず、国内における集団事例においても混合感染の可能性を視野に入れて検査を実施する必要があるものと考えられる。

秋田県衛生科学研究所
齊藤志保子 八柳 潤 鈴木陽子
安部真理子 佐藤宏康 宮島嘉道

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