東京都内で発生したSalmonella Corvallisによる集団食中毒2事例について
Salmonella血清型Corvallisは、英国では1993年以降ヒトからの分離例が毎年50件前後報告され、その動向が注目されている血清型である。一方、わが国においては、S.Corvallisは1989年以前には分離報告のほとんどない血清型であったが、1990年以降散発下痢症から検出され始め、徐々に増加してきている。1997年に東京都内でわが国で最初と推定される本菌による集団食中毒2事例を経験したので、その疫学的および細菌学的検査成績を報告する。
食中毒検査のための検体は、当研究所に搬入された患者および非発症者糞便、検食あるいは参考食品、そしてふきとり材料である。サルモネラの検査には、選択増菌培地としてセレナイト・シスチン培地、分離培地としてSS寒天、DHL寒天を用いた。また食品、ふきとり材料についてはEEM培地で前培養後、選択増菌培養を行った。分離株の同定は、生化学的性状を確認後、市販(デンカ生研)のOならびにH診断用血清を用い、O:8(+)、O:6(−)、H:z4(+)、 z23(+)、2相(−)であることを確認しS.Corvallisと同定した。
事例1:1997年7月2日〜4日に、都内S区内の看護学院の学生210名中63名が食中毒症状を呈し、うち3名が入院した。主な症状は腹痛、下痢、発熱等であった。細菌学的検査の結果、患者および非発症者糞便161件中150件からS.Corvallisが分離された。また、学院内食堂の定食類の検食27件中4件(生野菜とマカロニサラダ、ニンニクの芽のソテーとコールスロー、油揚げと白菜、白菜とキャベツ)、ふきとり12件中1件(流し)から本菌が分離され、学院内食堂の「定食」が原因であることが判明した。
事例2:1997年8月7日〜11日に都内18カ所の会社等の事業所員50名が食中毒症状を呈した。症状は、倦怠感、水様性下痢、発熱、頭痛、腹痛等であった。共通食は8月6日の昼食に喫食した市販の弁当(製造会社は事例1と同じ都内S区)であった。患者糞便33件中22件および弁当屋の従業員糞便6件中5件からS.Corvallisが検出された。ふきとり15件中9件からも本菌が検出され、施設内のいたる所が本菌に汚染されていることが判明した。この施設では、検食を保存しておらず原因食品から原因菌を検出できなかったが、疫学調査から「コーンピラフ弁当(コーン入りピラフ、カニコロッケ、クリームチキン、ザーサイ)」が原因食品と推定された。本弁当屋の調理施設環境が非常に汚染されていたことから、調理過程における二次汚染の可能性が示唆された。
2事例で分離された菌株の薬剤感受性試験(9薬剤を供試)の結果、事例1由来株はTC・SM耐性で全株が一致し、事例2由来株は9薬剤すべてに感受性で全株が一致した。また両事例由来株ともプラスミドを保有しており、各事例内の株のプロファイルは一致したが、事例1と事例2では異なっていた。さらに、パルスフィールド電気泳動(PFGE)法による解析(XbaI、BlnIで消化)を行った結果、PFGEパターンは各事例ではそれぞれ同一であったが、事例1と事例2では明らかに異なったパターンを示した。
以上の成績より、1997年7月および8月に同一区内で相次いで発生したS.Corvallisによる集団食中毒は、その原因菌株の薬剤耐性パターン、プラスミドプロファイル、およびPFGEパターンが異なることから、それらの汚染源は異なるものと推察された。
一方、比較のために当研究所保存のS.Corvallis株(散発下痢症由来5株、鶏肉および鶏卵等由来14株)についても検討した結果、これらの保存株の中には今回の2食中毒事例由来株と疫学マーカーがすべて一致するものは認められなかった。
このように、各々起源が異なると推定されたS.Corvallisによる集団食中毒が続けて発生したこと、あるいは散発事例が徐々に増加してきていることから、今後十分な監視を行っていく必要がある。
東京都立衛生研究所
横山敬子 甲斐明美 楠 淳 伊藤 武