新しいエンテロトキシンを産生すると推定されるウェルシュ菌による食中毒事例−東京都
(東京都微生物検査情報第19巻第6号より転載)

ウェルシュ菌食中毒は、全国で年間約20事例と発生件数は少ないものの、1事例あたりの患者数が100名を超す場合も少なくなく、大規模食中毒の代表としてあげられている。患者の症状は下痢、腹痛が主で比較的軽症であること、原因食品喫食後8〜15時間後に集中して発症すること等の特徴があり、発生状況から本菌食中毒であることが予想されることが多い。原因菌は、主に耐熱性の芽胞を形成する下痢原性毒素(エンテロトキシン)産生菌である。従って本菌食中毒の細菌学的検査法は、芽胞の耐熱性を利用した方法で分離し、分離菌株のエンテロトキシン産生能をRPLA法およびPCR法によって確認することによる。

昨年東京都で、既知のものには一致しないエンテロトキシンを産生するウェルシュ菌によると推定された食中毒事例を経験したので、その疫学的、細菌学的検査成績について紹介する。

1997年10月、都内の少年野球大会で昼の弁当を喫食した160名中39名が約15時間後に下痢、腹痛を呈した。患者および非発症者の糞便を100℃10分加熱処理しウェルシュ菌の分離を試みた。36件中12件からウェルシュ菌血清型TW27を検出した。分離されたウェルシュ菌の生化学的性状は典型的であること、毒素型はマウス中和試験およびPCR法によりA型であることを確認した。一方、下痢の原因とされるエンテロトキシン産生能は大谷らの変法DS培地を用い芽胞の形成を確認した後、市販キット(デンカ生研)を用いたRPLA法で調べた結果、陰性であった。

また、3種類の異なるプライマーを用いたPCR法でもエンテロトキシン遺伝子の検査を行ったが、すべて陰性であった。その他、大腸菌のVT、LT、ST、ディフィシレ菌のエンテロトキシンも陰性であった。しかし、下痢原性試験として変法DS培地培養液および瀘液を試料液として、ウサギ結紮腸管ループテストで調べた結果、培養液および瀘液とも結紮腸管に液体貯留が認められた。本活性は60℃5分の加熱あるいはプロナーゼ処理により失活した。変法DS培地培養瀘液をVero細胞に作用させたところ、従来のウェルシュ菌エンテロトキシンとは異なった細胞変性が認められた。

以上の成績から、本事例は既知のエンテロトキシンとは異なる下痢原性毒素産生性ウェルシュ菌による食中毒と推定された。本毒素の詳細については現在検討を進めている。

ウェルシュ菌食中毒の細菌学的診断としてHobbs型1〜17の血清型別が広く利用されている。過去35年間に東京都内で発生した79事例のウェルシュ菌食中毒由来株の58%がHobbs型に該当したが、残り42%は東京都立衛生研究所で開発したTWの血清型に該当するものであった。

なお分離菌株が市販血清で型別されないときは、TW型別システムで型別を行いますので、当研究所に御依頼ください。

東京都立衛生研究所細菌第一研究科 門間千枝

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

iasr-proc@nih.go.jp

ホームへ戻る