三重県におけるアデノウイルス7型の流行

アデノウイルス7型(Ad7)は1995〜1996年全国各地で分離が報告され、隣接する愛知県では、すでに1995年に報告があったにもかかわらず、三重県では全く分離されなかった。

しかしながら、1997年2月に初めてインフルエンザ様疾患の患者からAd7が分離されて以来、7月には、1歳児の死亡例があり、1998年5月には、幼稚園や小学校低学年での集団発生が確認されたので、流行状況およびAd7の分離・同定に至った経過について問題とするところを報告する。

サーベランスと臨床所見表1は1995年〜1998年8月までのアデノウイルスの分離状況である。

三重県では、分離されるアデノウイルスの多くはアデノウイルス3型(Ad3、1991年サーベイランスの結果では68%)であったが、1997年のAd7の出現以来、Ad3は全く分離されなくなった。

Ad7を分離した患者の診断名は、上気道炎、肺炎(下気道炎)、熱性痙攣、不明熱、不明発疹症、ヘルパンギーナ、川崎病、リンパ節炎、胃腸炎と多彩ではあるが、高熱(39〜40℃)と呼吸器症状が主徴で、臨床的にはAd3と変わらないようである。しかしながら、小児から成人では上気道炎(臨床診断名:咽頭炎)が多いのに対して、乳幼児では重症の肺炎を起こす症例が多く、年齢による違いが認められた。

集団発生:1998年5月25日〜29日、三重県のほぼ中心部に位置するK市の幼稚園と隣接する小学校1年生の2クラスで発熱と胃腸症状を伴った上気道炎による学級閉鎖があり(各クラス8/35人の欠席者)、感染者4人から糞便と咽頭ぬぐい液を採取し、ウイルス分離を実施したところ、全員からAd7を分離・同定した。また採血できた1人に、急性期と回復期血清の補体結合抗体価が8倍以下から16倍と有意な抗体価の上昇を確認し、血清学的にもアデノウイルスの感染であったことが証明された。

集団発生した患者の年齢は6歳で、乳幼児のAd7感染者に比較して、発熱期間は3〜4日と短く、熱性痙攣や肺炎を呈する重症患者は見られなかった。

ウイルス分離と同定試験:1997年〜1998年8月までサーベイランス定点および集団発生患者のうち、主として高熱と上気道疾患のある患者156人についてAd7を目的として、HeLa、RD-18、MDCKおよびVero細胞を用いて分離を行った。Ad7のCPEの発現は遅く、最も速い例でも、初代10日目、最長5代の継代を要したところから、正常細胞の維持のためにはVero細胞が最適と判断した。

同定は中和試験により、抗血清は20単位の市販および感染研分与血清を用いた。市販抗Ad血清を用いた同定試験では11株中8株(73%)にAd7とAd3との交差が、Ad7、Ad3とAd11との交差が1株(9%)に認められたので、Ad3(Lot79)、Ad7(Lot77)、Ad11(Lot78)は感染研から分与された抗血清を使用した。しかし、市販抗血清でも10単位に希釈すると、ほぼ問題なく同定することができた。

Ad7とAd3あるいはAd11との交差反応の結果から、現在、12株のウイルスが未同定であり、今後は、これらの問題を考慮した検査方法の導入により、検査の精度化をはかる必要があると考えている。

三重県科学技術振興センター衛生研究所
櫻井悠郎 矢野拓弥 福田美和 川田一伸
杉山 明 松本 正
山田赤十字病院小児科 井上正和
亀山市落合小児科医院 落合 仁

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