最近におけるアデノウイルス7型の流行−神戸市
この数年、日本においてアデノウイルス7型(Ad7)の分離数が急に増加し始めた。またその臨床症状は重篤な場合もあり、注目されている。
当研究室においても、1997年3月までAd7の分離経験は全くなかったが、1997年4月〜1998年3月までの間に、10患者より16株を分離した。さらに1998年4月〜8月上旬までに6患者より10株を分離した(表1)。以下その報告を行う。
分離材料は、神戸中央市民病院から依頼された患者の咽頭ぬぐい液、便、尿、眼脂、髄液である。96穴または24穴のプレートに培養したFL、HEp-2、Vero-E6、RD-18S細胞に検体を接種し、約1週間〜10日間細胞変性の観察を続けた。その間2〜3日に1回の割合で培地交換を行った。1代目で陰性であった培養細胞は、プレートから培養液ごとはがし、凍結融解を2、3回繰り返し、さらに超音波処理を行い細胞を破壊した。さらに遠心して細胞残渣を取り除いた上清を新細胞に接種し継代を行った。通常は2代目まで、必要な場合は3代目まで同様に処理し継代した。
接種を行った細胞のうち、感受性の高い順にFL>HEp-2>Vero-E6であった。CPEの形態は典型的な伸縮性アデノ型である。CPEの形態から伸縮性アデノであることを確認した後、中和試験法で同定を行った。ウイルスの感染力価は 102〜 103TCID50/0.1mlであった。中和抗体(20単位で使用)はデンカ生研のものと、感染研より分与されたものを使用した。Ad7の中和抗体は同じ亜属BであるAd3、Ad11と交差した。そのため、20単位の抗体でAd3およびAd11と区別のつきにくい分離ウイルスは抗体をさらに段階希釈して同定を行った。
1997年4月〜1998年7月までに、27患者から43検体のアデノウイルスを分離したが、そのうちAd7が分離された患者の割合は59%であり、全アデノウイルスの中で最も多数を占めていた(図1)。
各患者からのAd7分離の詳細は表1に示した。患者の年齢は61歳の血尿患者1名を除き、全員小児であり、その年齢分布は0歳3人、1〜5歳8人、6〜10歳4人であった。血尿を呈した61歳の患者の基礎疾患は急性骨髄性白血病であった。生後6カ月の肺炎患者は特に基礎疾患はなかったが、肝機能障害を伴い、胸水がたまるなど非常に重篤な症状であったが、快癒した。4歳の肺炎・扁桃炎患者は房室ブロックの症状を呈し、治癒の過程で一過性の不整脈を生じた。1歳の肺炎・筋炎の患者は軽度の心不全を併発した。無菌性髄膜炎患者の女児は、妹が咽頭・扁桃炎、髄膜刺激症状を呈した後(Ad7分離陽性)、1週間の間をおいて発病した。扁桃炎の4歳の患者は他の疾患(ペルテス病)で長期入院していたが、同室に2週間前から同様に発熱(1週間)した患者がおり、感染した可能性がある。
Ad7分離陽性患者の臨床症状は表2に示す。分離陽性患者全員に発熱があった。発熱時の体温は血尿患者(38.0℃)を除いて高く(39.0〜40.5℃)、発熱期間は4日〜最長12日間であった(図2)。各諸症状は、上気道炎(鼻汁、咽頭発赤、咽頭炎、扁桃炎)13名(81%)、下気道炎(肺炎)2名(13%)、頸部硬直・髄膜刺激症状を呈した者4名(25%)、下痢2名(13%)、嘔吐4名(25%)、角結膜炎・結膜炎2名(13%)であった。
分離陽性患者の各検体からの検出状況を表3に示す。咽頭ぬぐい液、便とも検出率は高かった。また、肺炎・筋炎の患者の尿からもウイルスが分離された。
病原微生物検出情報収集開始(1980年)後、1994年まではAd7の分離は非常に稀であったため、若年層は抗体を保持していない可能性が強く、今後大規模な流行があることが予測され、十分な注意が必要であろう。
神戸市環境保健研究所 秋吉京子 須賀知子
神戸市立中央市民病院 春田恒和 西尾利一