給食弁当が原因として集団発生した食中毒事例からの小型球形ウイルス(SRSV)遺伝子の検出−静岡県

1998(平成10)年2月13日、県内の給食施設で製造された給食弁当喫食後に、下痢、嘔吐、腹痛、発熱などの食中毒症状の発生が確認され、この事件の疫学調査および病因物質についての調査を実施した。

患者はいずれも上記施設の給食弁当を喫食し、他に共通した食品がなく、喫食者4,500名中644名(発病率14%)の患者発生が認められたことから、この施設を原因施設と判断した。

患者発生期間は1998年2月13日〜16日、平均潜伏時間は37時間であった。臨床症状は下痢80%、嘔気70%、腹痛55%、嘔吐55%、発熱48%が主で、下痢患者518名の特徴として94%が水様便、平均下痢回数は6回、嘔吐者351名の嘔吐回数は平均3.6回で、発熱者308名中86%が38.5℃以下であった。

病因物質および感染源などを究明するために、患者糞便19検体、施設従業員糞便42検体、原因食品として推定された2月12、13日の給食弁当の残品および食材20検体の検査材料が所轄保健所で採取され、食中毒発生時の細菌学的検査術式に従い、検査材料を分離培地を用いた直接法と、増菌培地から分離を行う増菌法で検索が実施されたが、既知病原細菌は検出されず、ウイルス(SRSV遺伝子)を対象とした検索を実施した()。

SRSV遣伝子の検出については、RT-PCRのプライマ−として数多くのものが考案されているが、今回の調査では各検体に2組(Wangらが作製した35/36系、斎藤らが作製したMR3/4系:本月報Vol.19、No.1、p.5参照)のプライマーを用いた。

各検査材料からのSRSV遺伝子検出状況を表に示した。35/36系で患者糞便19検体中2検体(11%)、MR3/4系では患者糞便19検体中13検体(68%)と施設従業員糞便42検体中2検体(4.8%)から1st PCRまたはNested PCRにより検出されたが、原因食品として推定された給食弁当の残品および食材からは検出されなかった。また、患者糞便で陽性の13検体、施設従業員糞便で陽性の2検体についてはSRプライマー(SR33,48,50,52:genogroupI、SR33,46:genogroupII)で確認すると、すべてgenogroupII(Snow Mountain type)に型別された。

また、Nested PCRにより検出された患者および施設従業員糞便から検出されたPCR産物について塩基配列を決定したところ、genogroupIIに属する1995年末に静岡県内の散発例患者から検出された株に類似していることが確認された。

これまで我々は35/36(1st PCR)、NV81/NV82、SM82(Nested PCR)のプライマーを主にSRSV遺伝子の検索を実施し、県内で発生した各集団事例および食品などからのSRSV汚染を明らかにしてきたが、今回の事例ではプライマーの選択が検出率を大きく左右することを経験した。SRSVのPCR検出には35/36系プライマーが汎用されているが、その検出率が高いとは言い難く、35/36系の問題点はSRSVの遺伝子型の多様性によるものではなく、プライマーの塩基配列に起因するものではないかと考え、35/36系とSR系を第一選択とし、必要に応じてMR3/4系を用いることを検討していきたい。

なお、本事例は、原因食品として推定された給食弁当の残品および食材からSRSVは検出されず、人(施設従業員)から人への感染の可能性も少なく、感染源、感染経路を特定することはできなかった。

静岡県環境衛生科学研究所
杉枝正明 佐原啓二 長岡宏美
三輪好伸 宮本秀樹 中村信也
静岡県天竜保健所  阿部冬樹
静岡県健康福祉部衛生課 漆畑 健
国立感染症研究所  松野重夫

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