小学校でみられたC群ロタウイルスによる急性胃腸炎の集団発生−北海道

1998年5月、北海道滝川市の1小学校においてC群ロタウイルスが原因と思われる急性胃腸炎の集団発生がみられた。その概略を報告する。

胃腸炎患者は5月9〜19日にかけて多発し、保健所の一次調査によると、発症者は13日(56名)、14日(22名)をピークとして教職員30名中1名、児童429名中107名(25%)に及んだ。主な症状は発熱(76%)、嘔吐(74%)、下痢(71%)および腹痛(60%)であった。患者の発生は5年、6年の上級生が若干少ないものの全学年にわたってみられ、医療機関受診者は61名で、そのうち2名が脱水症状のため入院した。臨床症状からウイルス起因が疑われ、患者糞便23件および食中毒の可能性を考慮して採取された給食調理従事者(非発症)糞便5件の計28件の糞便検体についてウイルス検査を行った。電顕法によりロタウイルスが検出されたため、デンカ生研製キットを用いてA群(ラテックス凝集法)あるいはC群(RPHA法)ロタウイルス抗原の検出を試みた。また、Gouvea et alの方法によりRT-PCRを行った。その結果、患者糞便23件中19件にC群ロタウイルスが検出された。給食調理従事者の検体は全例陰性であった。電顕法とRT-PCR法によるロタウイルス陽性検体は一致しており、例数は19件で、RPHA法による陽性例はこのうち17件であった。患者からの糞便採取は23件中19件が4病日以内に行われており、電顕法による検出率は高く、またRPHA法では17例中12例が≧256の高い凝集価を示した。A群ロタウイルスは抗原、遺伝子ともに検出されなかった。またSRSVも電顕法、RT-PCR法とも、結果はすべて陰性であった。ウイルス検査と同時に、糞便(患者および給食調理従事者)、食材、調理品、調理器具などについて細菌検査を行ったが、結果は陰性であった。

今回の集団発生は初発と思われる患者が出てから6日後の5月15日には発症者が4名に急減し、ほぼ終息したかにみえたが、翌16日には新たに7名が発症、小さなピークとなった。同時に患者の家族に嘔吐、下痢、発熱を訴える者が出ているとの情報があり、患児のいる83世帯の家族を対象に、5月12日以降の胃腸炎発症者の有無について聞き取り調査を行った。その結果、家族の発症は37世帯51名(1世帯当りの患者数:1名24世帯、2名12世帯、3名1世帯)にみられ、発症のピークは5月16日(16名)であることが判明した。このピークは児童の多発のピーク(5月13日)とは3日間のずれがあり、また児童にみられた2回目の小さなピークと一致していた()。C群ロタウイルス感染症の潜伏期間が2〜3日であるとされていることから、このような発生状況は、二次感染が児童から児童へ、あるいは家族へと起こったことを示唆するものと思われる。発症者は祖父母、父母、兄弟姉妹と広い年齢層にわたっていたが、患児の看護、汚物の処理などのためか、母親の発症が51名中17名と最も多くみられた。

本事例は、当初、学校給食を原因とする胃腸炎の集団発生との疑いが持たれたが、給食の原材料、調理品、調理器具などのウイルス検査が実施されていないため、感染源、感染経路は不明である。しかし、5月9日、10日発症の児童(それぞれ1、2名)は、ウイルス検査は行っていないが、臨床症状から他の児童と同様にロタウイルス感染と思われること、また、12日以降の学年別、クラス別の患者発生状況に時間的なずれがみられないことなどを考慮すると、本事例は、ウイルスがある感染児童から他の児童へと伝播し、その後多数の児童の発症へと展開したのではないかと推測される。そこにどのような要因があったのかは全く不明である。

北海道立衛生研究所
沢田春美 吉澄志磨 玉手直人
北海道滝川保健所  荒田吉彦 勝山真吉
滝川市立病院小児科
古屋孝子 堀田智仙 平木雅久

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