給食従事者からの志賀毒素産生性大腸菌分離状況(1997年〜1998年9月)−秋田県

志賀毒素産生性大腸菌(STEC)食中毒の予防対策の一環として、STECを対象とした給食従事者の検便が義務づけられている。糞便からSTECを分離・同定する際、志賀毒素や志賀毒素遺伝子(Stx)を指標とすることが理想であるが、多くの検査機関では市販の血清群別用キットを使用する検査に頼らざるを得ないのが現実であろう。この場合、市販のキットに含まれないO群のSTECは検出することができないことが問題である。秋田県では、秋田県総合保健事業団(財団法人)がPCRを応用したSTECのスクリーニングを実施している。スクリーニング検査でStx遺伝子保有株の存在が示唆された検体は当所に搬入され、STECの分離・同定が試みられている。

1997年〜1998年9月にかけて、給食従事者のSTEC感染事例が11事例確認された(陽性率約0.0125%)()。それらのうち、STEC O157の感染は2事例、non-O157 STEC感染は9事例であり、家族内感染はO157が検出された2事例に認められたが、感染者はいずれも無症状であった。分離されたnon-O157 STECの血清群はO8およびO128以外は市販血清群別用キットに含まれないO91、OX3、O103、O145であった。O91、O103、O145はいずれも1989年のKarmaliの総説にHUS患者から分離されたSTECとして記載されている。また、東京都においてO145:NMを原因とする集団事例が発生しており、O103は秋田県や青森県で散発下痢患者から分離されている。一方、ヒトからのOX3群の分離は本邦初と思われる。型別を依頼したStatens Serum InstitutのFlemming Scheutz博士によると、OX3はフィンランドやデンマークにおいてHUS患者から分離されており、新しいO群174とされる予定である。現在、市販血清群別用キットを使用したスクリーニング検査ではこれらのSTECを検出することは極めて困難と考えられる。

わが国におけるSTEC O91、OX3、O103、O145を原因とする下痢患者の発生実態は明らかではない。今後、その実態解明のため、また血清を使用して給食従事者の検便を実施している検査機関におけるSTEC検出精度向上のために、これらの血清群を加えた群別用血清の市販が望まれる。

秋田県衛生科学研究所
八柳 潤 木内 雄 齊藤志保子 鈴木陽子 安部真理子 佐藤宏康 宮島嘉道
秋田県総合保健事業団
斎藤 敦 広島順子 片岡敏子

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