インフルエンザ抗体保有率調査速報(平成10年11月17日発)
1.検体数:1998(平成10)年11月17日現在、新潟、山梨、神奈川、愛知、高知、鹿児島、静岡、福島、宮崎、大分の各地方衛生研究所より抗体保有率調査結果が報告されている。本速報は上記10地研の集計結果である(図)。年齢群別の検査数は、0〜4歳178例、5〜9歳153例、10〜14歳150例、15〜19歳106例、20〜29歳245例、30〜39歳236例、40〜49歳240例、50〜59歳207例、60歳以上147例で、総数1,662例である。なお、集計はHI法の最低の陽性希釈倍数として10倍、感染防御能があると考えられている40倍で集計した。
2.A/北京/262/95(H1N1)に対する抗体保有率:本ウイルス株は、本年度のワクチン株であり、過去には1996年に仙台市、1997年3月に東京都で分離されたことがあり、昨年散発的に分離されているものである。全年齢群でみると、10倍以上保有率38%、40倍以上6.4%であるが、年齢群別にみると、学童年齢では他の年齢群に比し高くなっている。
3.A/シドニー/5/97(H3N2)に対する抗体保有率:本株は本年度のワクチン株であり、昨シーズンの流行では流行の約50%程度を占めたと考えられる佐賀株類似のものである。全年齢で10倍以上65%、40倍以上28%で、比較的高い保有率は昨年の流行を反映しているものと考えられる。しかし20歳以上ではやや低い。
4.A/横浜/8/98(H3N2)に対する抗体保有率:本株は昨シーズンに分離された株で、上記のシドニー株から4倍程度変異したものである。抗体保有率曲線はシドニー株に似たパターンをとっている。
5.B/ハルビン/07/94に対する抗体保有率:本株は、本年のワクチン株であるB/三重/1/93類似株である。過去にも1993/94シーズン以来、B型では流行の主な株となっている。全体では10倍以上55%、40倍以上25%となっているが、学童、中年齢で比較的高い。
6.B/北京/243/97に対する抗体保有率:本株は、1996/97シーズンより散発的に分離されている変異株である。全体的に保有率は低く、10倍以上36%、40倍以上13%である。
7.A/ダック/シンガポール/3/97(H5N3):本株は、昨年香港で分離された新型インフルエンザ(H5N1)ウイルスと抗原的に類似している弱毒株である。本年度の血清では本株に対する抗体は認められていない。
8.コメント:今シーズンは、既に福岡市でA/シドニー(H3N2)類似株の分離が報告されている。この株が今シーズンの主流行株とすれば、抗体保有率が5〜14歳の年齢群では比較的高いため、高齢者に対策の主眼がおかれるべきと考える。H1N1に対する抗体保有率は過去には全年齢群で高い抗体保有状況(32倍以上70%程度、128倍以上40%程度)であった。それらに比すると今年のA/北京(H1N1)に対しては低い。さらに過去2シーズンには流行がないため、H1N1に対する警戒も必要と思われる。B型では、ワクチン株に対する保有率は比較的高いが、変異株に対する保有率は低い。ただし、この集計は全国集計であり、各報告には地域差も認められているため、地域ごとの評価も必要であると考えられる。また、今後の分離株に注意を払う必要があると思われる。
国立感染症研究所感染症情報センター
予防接種室 松永泰子
感染症対策計画室 谷口清州