秋田県における腸炎ビブリオ分離状況および分離株(O3:K6 TDH+)のパルスフィールド・ゲル電気泳動による解析

秋田県における腸炎ビブリオ集団食中毒発生数は表1のとおり、1995(平成7)年までは年平均1件程度であったが、1996年以降急増し、1998年の発生数は前年の2倍以上の15件であった。1997年と1998年の夏期には集団事例だけでなく散発事例も多発し、分離菌のほとんどがO3:K6 TDH+であった。このことから、腸炎ビブリオ感染症多発の原因究明のため、市販の各種海産物についての汚染状況調査およびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を用いて下痢患者由来株と食品由来株のDNAパターンの比較を行ったのでその成績を報告する。

散発下痢患者便はTCBS寒天培地平板を使用した直接分離培養により腸炎ビブリオの検索を行った。食品は10倍量の食塩ポリミキシンブイヨンで一夜培養後、その培養液についてPCR法により、TDHとTRH遺伝子の有無をスクリーニングした。スクリーニングでTDH遺伝子が確認された場合は、我妻寒天培地上の溶血環を指標にし、TRH遺伝子が確認された場合はウレアーゼを指標にして菌の分離を試みた。得られた菌株についてPCR法でそれぞれの遺伝子を確認すると同時に血清型別、性状検査を実施した。スクリーニング陽性検体についてはPCR法により毒素遺伝子保有菌のMPNを測定した。PFGEはNotIを用いて行った。食品の汚染調査の結果、1997年には各種海産物食品50検体中、アサリおよびコタマガイからO4:KUT TRH+ 腸炎ビブリオが分離されたが、O3:K6 TDH+は全く分離されなかった。1998年はボイルホタテ23検体、生ホタテ2検体、計25検体中、ボイルホタテ7検体から腸炎ビブリオ O3:K6 TDH+菌株が分離された。なお、ボイルホタテ3検体はPCR法でTDHスクリーニングが陽性であったが、菌は分離できなかった。TDH+の検体のMPN は<30〜≧230であった。

次に分離されたO3:K6 TDH+株のPFGEパターンについて比較したところ、ボイルホタテ由来株のPFGEパターンはすべて同一で、このパターンをA型とした(図1)。散発下痢患者由来株のPFGEパターン(表2)については、1998年の分離株の約50%がホタテ由来株と同一のA型であったが、1997年の分離株の多くは約300kbのバンドが欠損しているパターン(B型)を示した。なお、図1に示すとおり、A型と1〜2本バンドが異なる株をAグループとし、B型と1〜2本バンドが異なる株をBグループとしたが、A、Bグループに該当する分離株は少数であった。食中毒事例由来株のPFGEパターンも散発下痢患者由来株と同様に1997年はB型が多く、1998年にはA型が多い傾向にあった(表1)。

秋田県において1998年に食品からO3:K6 TDH+が分離された食中毒事例は2事例あり、1事例はボイルホタテが関与した家族内感染事例で、患者由来株、従業員由来株、ボイルホタテ残品由来株のPFGEパターンはすべてA型であった。他の1事例は飲食店で発生し、宴会料理から分離された株、患者由来株および従業員由来株すべてPFGEパターンはA型であった。

1997年および1998年に分離された腸炎ビブリオO3:K6 TDH+のPFGEパターンは極めて類似していたが、年次により主たるパターンが異なり、そのクローンに若干の変遷があることが推測された。また、1998年の食中毒事例中数例から分離されたO3:K6 TDH+のPFGEパターンが市販のボイルホタテ由来株と同一であったことから、ボイルホタテのTDH+腸炎ビブリオ汚染と食中毒発生との関連性が示唆された。

現在、O3:K6 TDH+株による腸炎ビブリオ食中毒が全国的に多発していることから、予防対策構築が急がれる。そのためには、ボイルホタテを含めた海産物や海水等の環境ついて調査し、腸炎ビブリオの汚染状況を把握しなければならない。さらに、患者由来株と食品・環境由来株の関連性ついて分子疫学的に比較検討し、感染源を究明していく必要があると考えられる。

秋田県衛生科学研究所
齊藤志保子 八柳 潤 安部真理子

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