東北地方で分離された志賀毒素産生性大腸菌O121:H19 とO103:H2の解析(1996年〜1998年)
志賀毒素産生性大腸菌(STEC) O121:H19およびO103:H2は欧米においてHUS患者から分離されるSTECとして以前から知られている。これらの血清型のSTECの国内における分離報告は少ないが、東北地方ではSTEC O103:H2が1996年7月秋田県(本月報Vol.18、No.6、132、1997)、1997年5月青森県(本月報Vol.18、No.7、157、1997)、さらに1998年8月秋田県で分離されている。一方、O121:H19は1997年7月秋田県(本月報Vol.19、No.10、226、1998)、9月青森県、1998年には7月岩手県、8月秋田県で分離されている。また、1998年8月山形県で市販血清キットによりO114:H19と型別され、VT2 陽性というO121を疑う菌株が分離された。これらのSTECのうち、特にSTEC O121:H19は患者に重篤な症状を惹起する傾向があるため、その動向に注目すべきと考えられるが、感染源などの疫学的背景は明らかになっていない。このことから、東北地方で分離されたSTEC O103:H2およびO121:H19菌株についてXbaI PFGEパターンを比較し、分離株の分子疫学的関連について検討した。
表1に示すSTEC O121:H19 7株とO103:H2 3株を供試し、得られたXbaI PFGEパターンを図1に示した。STEC O121:H19供試株のXbaI PFGEパターンは互いに非常に類似しており、供試株の近縁度が高いことが示唆された。また、家族内感染事例で分離されたレーン4、5、6の株のパターンが同一であったことから、STEC O157などの家族内感染事例と同様に、本菌の場合も同一菌により家族内感染が惹起されることが明らかとなった。一方、PFGEパターンの約100kb以下の領域には株ごとに比較的顕著な違いが認められたことから、その領域に着目して供試株のパターンを比較すると、レーン1、4〜6、7の株のパターンが類似していること、さらにレーン2と3の株のパターンはこれらの株のパターンとは異なる傾向がみられた。以上の結果から、1997〜1998年にかけて東北地方には近縁度が高く、幾つかのサブタイプに区分されるSTEC O121:H19が侵淫していたものと考えられた。
一方、STEC O103:H2供試株のXbaI PFGEパターンを比較すると、レーン8とレーン9の株のパターンが非常に類似していること、一方、レーン10の株のパターンにはこれらの株のパターンと明らかに異なる傾向が認められた。これらのことから、わずか3株の検討成績ではあるが、STEC O103:H2には明らかに起源が異なると考えられる系統が存在すると考えられる。
O157以外のSTECの感染源や疫学的背景の解明はSTEC O157と比べて遅れている。特に、STEC O121:H19は感染者に重篤な症状を惹起する傾向があることから、今後その分離動向や分子疫学的性状の比較、さらに感染源調査などを全国的な視点から実施する必要があると考えられる。
東北食中毒研究会・大腸菌研究班
秋田県衛生科学研究所 八柳 潤 齊藤志保子 佐藤宏康 宮島嘉道
岩手県衛生研究所 熊谷 学 小林良雄 玉田清治
青森県環境保健センター 対馬典子 筒井理華 大友良光
山形県衛生研究所 大谷勝実 村山尚子 片桐 進
仙台市衛生研究所 小黒美舎子