新血清型赤痢菌Shigella flexneri 89-141感染2事例の概要と分離株の性状−秋田県

最近、国際分類委員会により承認されている血清型とは異なる、新血清型と思われる赤痢菌の感染事例が報告されている。東京都立衛生研究所の松下らは、1992年にI〜VIとは異なる型抗原を保有するShigella flexneri2種を報告し、それぞれの型抗原を88-893、89-141と仮称した。松下らは(本月報Vol.17、No.6、128、1996およびモダンメディアVol.44、No.10、8、1998)、1986年〜1997年の間に27事例(国内7、輸入20)のS.flexneri 88-893感染事例、および8事例(国内1、輸入7)のS.flexneri 89-141感染事例を確認しているが、国内感染と考えられる事例は少ない。

秋田県において1995年7月と1998年11月にS.flexneri 89-141の散発感染事例が発生し、菌株の同定に当所も関与したので、事例の概要と分離株の性状の特徴について報告する。事例の概要は表1に示すとおりである。2事例ともに感染者に渡航歴がなく、国内感染事例と考えられたことが特徴的であった。また、感染者2名の症状は比較的重篤で、粘血便など赤痢の特徴がみられた。事例1では某臨床検査センターにおいて、患者糞便から赤痢菌様性状を示し、S.flexneri多価血清にのみ明瞭に凝集がみられるものの、いずれの型血清、群血清によっても明瞭な凝集がみられず、型血清IVに微弱な凝集がみられる非定形的性状の株が分離され、当該株が当所に同定依頼のため搬入された。一方、事例2では、医療機関の検査室において、患者糞便から自動同定システムでShigella spp.と同定され、S.flexneri多価血清にのみ明瞭に凝集がみられるものの、いずれの群血清によっても凝集がみられず、コロニーによっては型血清IVに凝集がみられる非定形的性状の株が分離された。防疫検査を実施した担当保健所において患者の妻から同様な性状を示す赤痢菌様株が分離されが、その血清学的性状が非定形的であったことから、当所にその同定についての相談が寄せられた。

事例1、および事例2ともに、当所に搬入された赤痢菌様株の検査経過は以下のとおりであった。初めに、PCRによりInvE遺伝子の有無を調べた結果、いずれの株もInvE遺伝子陽性であり、組織侵入能を保有する病原株であることが判明した。そこで、次にEwingの常法に従い、生化学的性状39項目について検討した結果、2株の性状はS.flexneriの性状と一致することが確認された。ハートインフュージョン寒天培地を使用して調製した抗原により血清型別を試みたところ、S.flexneri多価血清のみに明瞭な凝集がみられ、型別、群別は不能であることが確認されたが、型血清IVによる凝集は全く認められなかった。以上の成績から、当該菌をS.flexneri血清型不明と同定した。そして、2株は新血清型赤痢菌である可能性が考えられたことから、都衛研に血清型別を依頼したところ、いずれもS.flexneri 89-141であることが明らかとなった。

S.flexneri 89-141は市販血清では型別不能と出るため、TSIとLIMなどの一次鑑別培地と市販血清キットのみを使用する検査では赤痢菌であることが見逃される危険性が高い。しかし、InvE遺伝子の有無の確認と常法により生化学的性状を確認することにより、確実にS.flexneriと同定することが可能である。なお、S.flexneri 89-141以外の新血清型赤痢菌に遭遇した場合も同様の方法で同定可能と思われる。

分離株の型別について快く、迅速に対応して下さいました東京都立衛生研究所・松下先生に深謝します。(S.flexneri 89-141の詳細については感染症誌Vol.66、1628-1633、1992参照)

秋田県衛生科学研究所
八柳 潤 齊藤志保子 安部真理子 佐藤宏康 宮島嘉道 森田盛大

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