アデノウイルス7h型が分離された2症例の報告−神奈川県海老名市
1995年以降わが国で、アデノウイルス7型(Ad7)による重症例、死亡例の報告が相次いでいる。当科診療地域にてもAd7が検出された症例を経験したが、DNA解析の結果、この株は近年流行中の7d変異株とは異なり、1996年に愛知県で初めて検出された株(南米で流行中の株と同一1))と同じAd7hであることが明らかになった(図)。このように、従来日本では認められなかった遺伝子型のAd7が流行している可能性があり、注意が必要と考えられる。症例の臨床経過を報告する。
症例1:1歳男児。1998年1月に発熱、咳嗽を主訴に海老名総合病院小児科に入院。一時解熱傾向を認めたが再び発熱し、肺炎の進行像を認め、また全身性の痙攣が出現したため北里大学病院へ転院となった。その後汎血球減少と骨髄所見にて血球貪食像が認められ、VAHSの併発と診断された。γ−グロブリン、ステロイド、交換輸血、免疫抑制剤などの治療が開始され一時症状の回復が見られたが、肺炎による呼吸不全および汎血球減少が進行し死亡した。
症例2:8カ月男児。1998年6月に発熱、喘鳴、軽度の呼吸困難が認められ、海老名総合病院に入院。約1週間後に解熱傾向を認めたが再び高熱となり、肺野の浸潤影は軽度増悪した。入院後2週間ごろから易刺激性が見られ、その後全身性の痙攣が出現し喘鳴が増悪したため、北里大学病院に転院となった。転院後呼吸管理およびステロイド投与などの治療が開始された。約1週間で症状は回復し、7月に退院となったが現在も喘鳴は消失せず、外来で加療中である。
Ad7hは南米では強毒型として1980年代半ばから知られているが2)、日本では愛知県の報告に次ぎ2番目の検出である。現在、日本各地にすでに広く伝播している可能性もあり、Ad7のサーベイランスを強化する必要がある。愛知の報告では臨床経過は軽症であったが、今回の2症例については、他の7型と同様に呼吸器症状を主に他の全身疾患も併発している。ウイルスの性質およびその重症化の機構が至急検討されるべきであると考える。
文 献
1.M.Hashido, et al., Epidemiol. Infect.in press
2.Kajon A, et al., J. Med. Virol. 1996; 48:151-6
北里大学小児科 石川義人 坂東由紀
海老名総合病院小児科 佐伯敏亮 福島崇義 古藤秀洋 川野 豊 箕浦克則
国立感染症研究所感染症情報センター 橋戸 円 稲田敏樹